焼鳥の名店【鳥しき】が、鳥尽しのコースで新たな鳥料理の可能性を追究|恵比寿【鳥焼き 小花】
あの人気店【鳥しき】の池川義輝氏が、LDH kitchenとのコラボレートで新たに始めたのは、焼鳥ならぬ“鳥焼き”。串を刺さない鳥焼きをメインに、さまざまな部位を一品料理として昇華させた18品のコースで楽しませてくれます。巻物あり、春巻きあり、新たな捌き方による希少部位も登場するなど、焼鳥と現代割烹を融合させた新しいスタイルとは……。
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【鳥しき】の池川義輝氏がLDH kitchenとコラボ
【鳥しき】直伝の焼鳥が一品料理として昇華
創作鳥料理を交えた多彩な鳥づくしのコース
【鳥しき】直伝、近火の強火による炭火焼きを小皿スタイルで
「この店でやりたいのは、焼鳥という業態ではできないこと」と話す店主の佐藤新太朗さん。日本料理店で研鑽を積んだのち、LDH kitchenで焼鳥店や居酒屋、会員制レストランなどの立ち上げに関わり、料理長も務めてきたオールマイティの実力派です。焼鳥の奥深さに魅力を感じ、【鳥しき】の池川義輝氏に師事して近火の強火を学び、師匠と共に鳥焼き料理の試作を重ね、新しいスタイルを生み出したのです。
焼き台の前でトングを使って食材をこまめに動かす佐藤新太朗さん
「池川さんから学ぶ焼鳥は、今までの焼き方とは全く違いました。近火の強火はほんの少しの油断も許されません。目を離さずに常に手を動かしていないと焦げてしまうのです」と話す佐藤さん。表面はカリッと焼き上げることで、内側に旨味たっぷりのジューシーな肉汁が封じ込められるのです。
その醍醐味を味わえるのが『手羽先』。香ばしさとジューシーさが見た目から伝わってきます。
強火の近火の醍醐味を味わえる『手羽先』。骨を抜いて食べやすくしている
また、池川氏が稀少部位・薬研軟骨の新しい楽しみ方として、横隔膜(ハラミ)と繋がったままにするという捌き方を考案。焼くと半分くらいに縮みますが、足を広げたカエルのような形に見えることから『とりかわず』と命名したそうです。
軟骨のコリッ、横隔膜のパリッとした食感。新たに考案した捌き方で、1つで二度美味しい体験ができる『とりかわず』
ワイルドな印象の膝まわりの部位も、上品な小皿料理に変身
串を刺したまま供される焼鳥ではなく、焼き網の上で焼いた鳥にさまざまな薬味やソース的なものを添えることで一品料理として昇華させています。
例えば膝まわりのお肉は、【鳥しき】では大きな塊にかぶりつくというダイナミックな楽しみ方ですが、ここでは焼いてから食べやすい大きさに切り、胡麻油と塩で和えた白髪ねぎ、茗荷などの薬味をトッピングして出されます。食材のダイレクトな美味しさだけでなく、他の食材が合わさった時のハーモニーを楽しむというのが焼鳥との違いなのです。
『つくね最中 自家製マヨネーズ』
つくねも、軟骨ほかさまざまな部位を叩いて作る【鳥しき】流ですが、小さめのハンバーグのような形に成形して串を刺さずに焼きます。それを、なんと香ばしく炙った最中の皮に入れ、『那須御用卵 極』で作った自家製マヨネーズでコクを添え、穂紫蘇を飾って見た目にも美しい一品に仕立てています。
低温調理、煮込みなど鳥を使った創作メニューで緩急あるコースに
コース料理は、鳥焼き料理だけではありません。最初に出されるのは低温調理でしっとりと火を入れた鳥胸肉と自家製のガリ、紫蘇の海苔巻きです。そして、次は熱々の春巻き。中の餡は、【鳥しき】では炭で炙ったバゲットの上にのせて出てくる鳥のモツの味噌煮込みです。季節を感じてもらうため、春は新牛蒡や筍を一緒に巻いていましたがこれからは何を入れるか試作中だそうです。
前菜としてコースの最初に出される『鳥胸肉のガリ紫蘇巻き』
『鳥のモツの味噌煮込みを春巻』揚げたてで熱々、皮はパリパリ
前菜3品、鳥のスープを使ったお椀の後、鳥焼き料理が1品ずつ出てきますが、合間合間で、季節の焼き野菜を使った小皿料理やお浸し、もずく酢、大根の甘酢漬けなど箸休め的な小鉢が出てくる緩急あるコース構成になっています。
『アスパラガスの炭火焼 極みソース、パルメザンチーズ』
そして、締めの食事は、炭火で香ばしく焼いたおにぎりのお茶漬けで胃を落ち着かせた後、お楽しみのデザートとして、1品目は甘くてねっとりとした熟成サツマイモの焼芋を炭火で焼いた熱々にバターをのせた『焼芋バター』。そして最後は『瀬戸内レモンのかき氷』ですっきりとしたフィニッシュ、という流れです。
『焼きおにぎりのお茶漬け』香ばしいおにぎりをひと口食べてから、出汁や薬味を入れ、崩していただくのがおすすめ
『焼芋バター』 宮崎県のこだわりの農家から届く熟成サツマイモの焼芋を炭火焼きに。ねっとりクリーミーな口当たりと香ばしさゆえ、バターをのせただけで立派なデザートに
“焼鳥”と串に刺さない“鳥焼き“の違いは、鳥そのものの味わいをストレートに楽しむか、焼いた鳥を一品料理に仕立てて季節の食材や薬味、ソースとのハーモニーを楽しむかというもの。また、焼鳥の場合、串に同じ部位が複数刺さっているので、全部の部位を食べ尽くすのは相当な大食漢ではない限り不可能ですが、小皿料理に仕立てたコースなら、少しずついろいろな部位を楽しむことができます。「鳥の味、魅力を余すことなく味わってほしい」という鳥ラバーの池川さん、佐藤さんの熱い思いが伝わってきます。
檜のカウンターが美しいしっとり落ち着いた和の設え。美しい器の数々にも注目したい
とても身近な素材ながらも、工夫次第で味わい方にはまだまだ未知の可能性もたくさんあることに気づかせてくれる創作メニューの数々。「その挑戦はまだ始まったばかり。日々師匠やスタッフとともに試作を重ねています」と話す佐藤さん。メニュー開発だけでなく、『とりかわず』のような新たな捌き方で、今までにない味わいを体験できるのも、真摯に道を極める池川一門のお店ならでは。
オープンして半年足らずながら既に注目を集め、予約至難になっていますが、是非とも多くの人に体験してほしい鳥料理というジャンルの新境地です。
撮影/佐藤顕子 取材・文/藤田実子
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