福島・いわき市【HAGI】~ヒトサラ編集長の編集後記 第66回
福島県いわき市にある小さなレストラン【HAGI】。アクセスが容易とは言えない場所ですが、多くの食通が訪れるのにはやはり理由があります。漁港まで15分、畑まで10分という地の利を生かして用意された魚や野菜などを中心に、フレンチの技法を駆使して薪でシンプルに焼き上げる料理。まさにこの地でしか味わえないテロワールの魅力を体験できる唯一無二のお店がここにあるからなのです。
小さなお家のようなレストランに入ると、キッチンのなかに薪の竈が目に入りました。
「熱源を薪にしたのは、梨農家だった祖母が料理で使っていたからなんです。僕は地の利を生かして鮮度で勝負するには、このやり方が一番かなと思いまして。いろいろ改良しながらやっているところです」。
そう応えてくれたのはオーナーの萩春朋シェフ。奥様と二人で店を切り盛りしています。
まずは、マリー・デュメのシャンパーニュの泡で喉を潤しましょう。そして桜の季節を感じるタラの芽のフライ。ほろ苦く、ほこほこした温かい感じをシンプルに塩でいただきます。
そしてクロダイ。ちょうど甲殻類を食べて味が乗っている時期のもので、さっと炙った皮目から海の香りが立ち上がります。これを福島県産米「夢の香」でつくった、廣戸川の純米大吟醸といただきます。
フグがチーズとともに出されます。近くの牧場のチーズと甲州を使った、いわきワイナリーの白が合わされます。おもしろい食感と風味。
次は春を告げる山菜と魚です。甘くぬめりのあるカンゾウに、春小鯛。爽やかな一皿です。ピュイイフュメが出てきました。
ナチュール感が満載の南豪バスケットレンジワインの赤と合わせたのは、旨さが凝集したようなアカヤマドリダケのスープ。個性のぶつかり合いのような味わいは、なかなか刺激的です。
いい香りとともにケンサキイカが出てきました。さっと炙っただけなので、レア感もあって、柔らかく甘い。こういうケンサキイカは食べたことがありません。
「いわきには7つの浜があって、それぞれ捕ってる魚が違います。ちょうどこの浜ではヤリイカが終わって、ケンサキイカに変わったところ。捕れたものをすぐ脱水して薪で焼くので、最高の鮮度だと思います」と萩シェフ。
噛んだ時のねっとりした独特の食感に、調味料としての役割を添える薪香。イカのおいしさを改めて教えてもらった気がしました。
お酒は仁井田本家の「しぜんしゅめろん」。生酛仕込み、酵母無添加(蔵付き酵母)でメロンの醸造香がします。
アナゴと海苔の一皿です。これも先ほどのお酒で、メロンの醸造香を感じながらいただきます。
「震災前、アナゴはこのへんのブランド商品でした。今でもいいものが捕れます」とシェフ。長時間低温で調理したかのような柔らかで味わい深いアナゴです。そして海苔の香りが海の風を運んできます。
「クリーミーなスープはアナゴを煮込んでつくるのですが、アナゴの脂身を熟成させています。食べる身は新鮮なものをそのままつかいます」。一皿のなかの時間差が、味にまた深みを加えているようです。
サツマイモとイワナという料理が出てきます。サツマイモをまるごと薪で焼いて麹で発酵させたものに、新鮮なイワナのイクラが添えられます。ポテサラ風ですが、先ほどのフグとチーズのような、小洒落たフレンチを感じてしまう一皿です。ココファームの「ぴのぐり」を合わせます。
萩シェフが竈でニンジンを焼いています。そういえば昔、庭で焚火をして焼き芋を焼いていたことを思い出します。萩シェフの料理から感じる奥深さは、こういった伝統を現代に、自分なりのアレンジで活かしているところにあるのかもしれないと思いました。
タケノコです。ハマグリのソースに合わせていただきます。ワインはサヴォアからラヴィエールのシャルドネ。
旨みをクリームでざっくりまとめてしまうのではなく、食材ひとつひとつの旨さがしっかり活きるよう工夫されている料理。そしてそれらが口の中で奏でる春のハーモニーのここちよさ。
次に出てきたホワイトアスパラとモリーユも然り。これが旬の贅沢というものでしょう。
ここでパンが出されます。福島の無農薬天日干しの小麦を、コスモスの花の酵母で発酵させたパンだということで、ほのかに花の香りを感じます。
「メインの牛肉は二本松のエム牧場の短黒牛で、黒毛和牛と短角牛の掛け合わせです。脂の融点が低いのが特徴なので、旨みを閉じ込めるようにゆっくり焼きました」。
これはもう味付けはいらないですね。合わせてもらった赤はサヴィニー=レ=ボーヌから。
デザートは近くの牧場の牛乳でつくったレアチーズとアイスクリーム。そして福島の苺「ゆうやけベリー」。なめらかで甘いスイーツと大きな苺です。
最後のお茶をいただきながら、静かに大地に思いを馳せる時間。
改めて、日本の地方の豊かさを感じさせてくれるところでした。
この記事を作った人
小西克博/ヒトサラ編集長
北極から南極まで世界100カ国を旅してきた編集者、紀行作家。
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