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更新日:2023.03.10食トレンド

サステナブルな取り組みをする「FOOD MADE GOOD」の星付きレストランをご存知ですか?

「FOOD MADE GOOD」は、外食産業のサステナビリティを高めることをミッションとして2010年に英国で創設された「サステイナブル・レストラン協会」が、飲食店の食材調達や運営のサステナビリティを各付けするプログラムで、日本支部は2018年に立ち上げられました。そして、2020年より格付けの表彰が行われています。表彰されたレストランはどのような取り組みでサステナビリティを推進しているのでしょう? 昨年11月、2回目となる「FOOD MADE GOOD JAPAN AWARD 2022」において3つ星を授与された2軒を実際に訪ねてみました。

FOOD MADE GOOD JAPAN AWARD 2022

    FOOD MADE GOOD JAPAN AWARD 2022

    表彰店の代表ほか、加盟店や日本サステイナブル・レストラン協会、協賛企業の方々で記念写真。授賞式の詳しい内容は上記のサイトで見ることができます

「FOOD MADE GOOD JAPAN AWARD」の格付けは、「調達」(地産地消やアニマルウェルフェア(動物福祉)、フェアトレードなど持続可能な調達を推進)、「社会」(スタッフのサステナビリティ研修、地域のコミュニティへの支援、飲食業界全体のサステナビリティの向上など社会にインパクトを与える行動)、「環境」(再生可能エネルギーの使用、フードロス・廃棄物対策の推進など)の3つの観点から調査してその総得点によって星の数が決まります。今回訪ねたのは、「調達」部門と「社会」部門で3つ星を受賞した2軒。サステナブルな取り組みとはいったいどういうことなのでしょう? 具体的なお話を伺いました。

「地球のために」は、まず地域から
100年先もこの地で愛される店が目標

    「調達」部門で3つ星に輝いた【PIZZERIA GITALIA DA FILIPPO】(東京/石神井公園)

    「調達」部門で3つ星に輝いた【PIZZERIA GITALIA DA FILIPPO】(東京/石神井公園)

【PIZZERIA GITALIA DA FILIPPO】のオーナーピッツァイオーロ・岩澤正和氏は、ナポリピッツァの世界大会で優勝した職人としての技術だけでなく、スタッフの育成や業界の発展のためにも尽力する経営者として業界内でも信頼の厚い人物。10年前に独立をする際、20年住んでいる石神井にとても愛着を感じていたことから「この場所だからこそできることがある。周りの環境とも共存しながら、ここで育つ子どもにとって“よい故郷”と思える、100年先も存在する店作りをしたい」と考え、お店を開いたそうです。

    岩澤正和

    ピッツァ職人として技を極めた岩澤氏。イタリアのスローフード精神にも影響を受け、サステナブルな経営のための工夫を重ねている

「ただ地産地消、オーガニック、脱酸素ではなく、思いを同じにしている信用できる仲間たちを守るための仕組みを作っていきたい」と話す岩澤氏。店で使う魚は、環境保全の配慮から海域を指定したり、一般的には流通にはのらない未利用魚なども積極的に使っていますが、その仕入れは同じ商店街で50年という鮮魚店【魚隆】に一任しています。

    魚隆

    「ずっと買い続けたいと思う信用できるお店」と、毎朝豊洲に通っている【魚隆】店主・若杉隆氏に仕入れを任せている

    【魚隆】若杉隆

    「横のつながりを大切に、この商店街を盛り上げてくれる岩澤さんには感謝しかない」と話す若杉氏

「東京とはいえ練馬や武蔵野台地は代々畑をやっている農家もいます。それに武蔵野うどんという食文化もあり、昔は小麦も栽培されていたんですよね。周囲のポテンシャルを生かして地元に根付く愛される店作りをしていれば、次世代も育っていく。地元を良くしていきたいという、地域の人が求める社会的な課題をひとつ一つ叶えていく。それがサステナブル、ということだと思っています」。

    岩澤正和

    「地域の人たちにいろいろ気づかせてもらった」と話す岩澤氏。地元愛があるからこそサステナブルな発想や構想が次々に生まれてくるに違いない

野菜は、練馬や保谷市など武蔵野の農家との取引が中心。また、ピッツァもパスタも製粉会社やパスタメーカーと共同開発した国産小麦100%のオリジナルを使用。市場にないなら作ってしまおうという驚くべき行動力も受賞の大きな理由です。

  • 北海道・江別製粉と共同開発した100%国産のピッツァ専用小麦。日本で唯一、本場ナポリピッツァの伝統を守るために制定された「ピッツァナポレターナSTG」の基準を満たしている

  • マルゲリータ STG extra

  • お店の看板メニュー『マルゲリータ STG extra』。同じ商店街に店を構える【FILIPPO MARKET】や通販で冷凍ピッツァを販売

  • 匠のパスタ

  • 1946年に石神井の地で創業したパスタ製造一筋の【コルノマカロニ】と岩澤氏がタッグを組み、日本の小麦、日本の水のみで作り上げた「匠のパスタ」。こちらも【FILIPPO MARKET】や通販で買うことができる

  • 高田白菜とカリフローレ 牡蠣の軽いクリームソース バペッティカラスミがけ

  • 『高田白菜とカリフローレ 牡蠣の軽いクリームソース バペッティカラスミがけ』。市場に多く出回る旬の野菜でメニューを考えることもフードロス対策に重要なポイント

  • 規格外の食材も有効利用

    規格外の食材も有効利用

岩澤氏は愛媛の北宇和島郡、四万十川の源流である目黒川のほとりにある「水際のロッジ」で野生のピッツェリア【Selvaggio】のプロデュースもしています。その縁で、見た目の悪さだけで弾かれる愛媛の柚子やレモンがあるのを知り、自家製の柚子チェッロやレモンチェッロを作っているのです。愛媛の食材に限らず、日本全国つながりのある生産者と連携して食品ロスを削減し、地域おこしができるような商品開発もしています。

    フィリッポ

    個性的でチームワーク抜群。働きぶりがとても気持ち良いスタッフたち。それぞれの思いを実現できるよう岩澤さんがサポートしている

若手育成も岩澤氏の信条。「一人の知恵や経験、力では限りがあります。スタッフみんなのポテンシャルも引き出していくことで持続可能になっていく。だからうちはみんなシェフであり、みんなサービスもできる。僕のレシピにもこだわらず、スタッフそれぞれの育った環境、食文化を生かして本人が「おいしい」と腑に落ちるものを作ってもらっているんです」。

    ピッツァ職人、そして岩澤氏に憧れ入社し「この店で骨を埋める」と宣言している廣瀬公彦氏。ナポリピッツァ世界大会日本人2位、世界7位、リゾットで日本2位、スパゲッティで4位などの実績を持つ

    ピッツァ職人、そして岩澤氏に憧れ入社し「この店で骨を埋める」と宣言している廣瀬公彦氏。ナポリピッツァ世界大会日本人2位、世界7位、リゾットで日本2位、スパゲッティで4位などの実績を持つ

「飲食店の道は独立開業だけではない。優れたピッツァ職人が良い経営者になれるとも限らないから」と岩澤氏。「個性を活かし、役割分担をしながらよいチームワークで伸び伸び働いてもらう。福利厚生も充実させて働きやすい環境を作るのも100年続く店作りに必要なことです」。

    フィリッポ

    【SELVAGGIO】の仕事を通じて出会った愛媛県宇和島の養殖鯛「鯛一郎(タイチロウ)クン」。海の資源を守るサステナブルな取り組みを推進しながら、餌など飼育方法の工夫でおいしさも追求。神経〆で届く

岩澤氏のサステナブルの取り組みというのは、スタッフはもちろん、生産者、販売業者、地域の人々など、一人ひとりの熱量を活かすこと。「調達」というシンプルな言葉の中に、たくさんの人の思いが宿っているのだと実感しました。

cafe×something
さまざまな掛け算で可能性を探り、仲間を増やしていきたい

    「社会」部門3つ星は【haishopcafe】(横浜・馬車道)

    「社会」部門3つ星は【haishopcafe】(横浜・馬車道)

【haishopcafe】は、「『ひと』と『地球』の未来を描く」をビジョンに掲げている株式会社Innovation Designが運営するカフェです。この店舗以外にも、【KITCHEN MANE】(横浜/馬車道)【KIGI】(東京/霞ヶ関)を運営するほか、物販、コンサルティング事業を通して社会課題の解決を目指している会社です。

    表秀明さん

    サステナブルデザイン室ゼネラルマネージャーの表秀明氏。社外の様々なパートナーの方々との共創を企画、運営するほか、社内ではサステナビリティに関する社員研修も行うリーダー役として活躍

今年は、「社会」部門での受賞ですが、昨年はこの3つの部門の総合で最も高い評価を得て大賞の3つ星に輝いた実績があり、サステナビリティレストランのリーダー的な存在でもあるのです。

    社員みんなで社会課題を振り下げ、具体的に飲食店でできることをそれぞれが考えるという研修を続けている

    社員みんなで社会課題を振り下げ、具体的に飲食店でできることをそれぞれが考えるという研修を続けている

「カフェやレストランを始めたときは、なんとなくナチュラルという程度の意識だったんですよ。会社全体が大きくサスティナビリィに舵を切ったのは2020年1月、コロナ禍で飲食店が暇になり時間ができたことがきっかけでした」と話すサステナブルデザイン室ゼネラルマネージャーの表秀明氏。社員全員がサステナブルデザイナーという意識を持って、SDGsを1から学ぶことで「食」の裏側にある社会課題を知る、というところからスタートしたそうです。

    食品ロス、プラスチックゴミ、フードマイレージ、フェアトレード、アニマルウェルフェア、パーム油など、食の裏側にある社会課題を一人ひとつ、30分でプレゼンテーションする勉強会

    食品ロス、プラスチックゴミ、フードマイレージ、フェアトレード、アニマルウェルフェア、パーム油など、食の裏側にある社会課題を一人ひとつ、30分でプレゼンテーションする勉強会

    生ごみゼロを目指す一つの解決策としてコンポストを導入。社員みんなで使い方を研修するほか、店舗でも家庭用のコンポストを紹介。販売もしている

    生ごみゼロを目指す一つの解決策としてコンポストを導入。社員みんなで使い方を研修するほか、店舗でも家庭用のコンポストを紹介。販売もしている

  • 社員と畑を訪ね、自然農法を体感したり、漁師と船に乗り市場に出ない未利用魚の存在を学び、メニュー開発するなど実体験も大切にしている

「こういった勉強会を重ねることで、以前は大根など剥いた野菜の皮を当然のように捨てていたましが、自然農法の野菜に変えれば皮を剥かなくてもいいと気づけるようになりました。地球環境保全のために半径80Km以内の食材を使う、余った野菜はスープにしてランチセットにおかわり自由でサービスするなど、小さな歩みですができることを見つけて実践しています」と表氏。

    メニューは野菜が中心のお惣菜が多い。余った野菜は日替わりのスープで提供している

    メニューは野菜が中心のお惣菜が多い。余った野菜は日替わりのスープで提供している

「お店に来てくれる方は、お客様であるのと同時に、共感、応援してくれる仲間と感じています。うちの店では8割が動物性の食材を使わないヴィーガンメニューですが、サステナブルのために何かを我慢するという気持ちにならないよう、“おいしそう”“きれい”“かわいい”と思ってもらえるメニュー開発を心掛けています」と表氏。興味がない人でも「時にはヴィーガンもいいね」といった感覚で選択肢が広がる楽しい提案に好感が持てます。

    野菜中心のカラフルな惣菜が目を引くディスプレイ

    野菜中心のカラフルな惣菜が目を引くディスプレイ

    植物性の素材のみを使ったヴィーガンクッキーやパフェなど。「ヴィーガンって何?」と興味がなかった人も頼んでみたくなるような楽しい提案

    植物性の素材のみを使ったヴィーガンクッキーやパフェなど。「ヴィーガンって何?」と興味がなかった人も頼んでみたくなるような楽しい提案

契約農家の有機野菜やフードロス対策として作っているドライフルーツを販売する週末マーケットを開いたり、食問題にまつわる映画の上映会をしたり、親子でフードロスを考えるワークショップをしたりと、カフェの領域を超えた活動をしています。また、余っている紙袋をカフェのお客に持ち寄ってもらい、リユースするなど何かをきっかけにコミュニケーションが生まれる行動で周囲を巻き込み、明るい未来を描く仲間を増やしているのです。

    週末マーケットでは畑で余ってしまったレスキュー野菜や、障がい者支援の商品も販売

    週末マーケットでは畑で余ってしまったレスキュー野菜や、障がい者支援の商品も販売

  • 子ども向けにフードロスについてわかりやすく体感できるワークショップも開催

  • haishopcafe

  • まだ使える紙袋を持ち寄ってもらい【haishopcafe】のロゴテープを貼ってリユースしている

このほか、横浜の調理師専門学校の学生と生産者と共に、食品ロスや地産地消の推進を意識したメニューの共同開発をしたり、小学校でアップサイクルの特別授業をしたり。お店の中に留まらず、カフェ以外の場所でも精力的に社会貢献している行動力が高い評価に繋がっているのです。

    メニューには魚の取引業者が開発した未利用魚のペット用フードも。ペット同伴可能のテラス席で提供している

    メニューには魚の取引業者が開発した未利用魚のペット用フードも。ペット同伴可能のテラス席で提供している

横浜店には隣接して「おみやげ」というコンセプトで社会課題の解説を目指すセレクトショップ【haishop】もあります。日本製、デザインが良い、伝えるストーリーがあるというのもセレクトの基準。海洋プラスチックから作られたカラフルなプロダクト、建築廃材を利用したアクセサリー、フェアトレード食品、パームオイルを使っていないポテトチップスなど、消費者が楽しみながら、社会問題を意識するようになるきっかけにあふれているのです。

    haishopcafe

    アパホテル&リーゾート内にあるおみやげをコンセプトにした【hai shop】(写真左)と【haishop cafe】(写真右)。横浜を訪ねてくる国内外の人々に日本のサステナブルを感じてもらえる誇るべきショップ

3年前はサステナブルについてあまり深掘りしたことがなく、フードロスをきっかけにサステナブルに関連する本を読んで勉強したという表氏。「掘り下げていくと一見食と関係ないように思える社会問題も根底では繋がっていることに気付かされる」と表氏。でも、目的のためにこうするべき、と決めつけたり、しかめっ面で伝えることはしたくないというのが信条。「問題が複雑だからこそいろんな見方が必要。どうしたら楽しく良い方向へ向かっていけるのか、いろんな人と対話を重ねて仲間を増やし、一歩一歩進んでいきたい。まずは、かっこいいと自慢できるマイボトルやマイバッグを持つ、そんな感覚で楽しむことが大切」と始終笑顔で話している明るさが印象的でした。

    haishopcafe

    スタンドスタイルの渋谷スクランブルスクエア店。様々な世代、国の人々が集まり新しい文化が生まれる渋谷だからこそ多様性を大切に、誰でも同じ食卓を囲めるよう、ヴィーガンメニューも充実。福祉施設のアーティストのイラストを壁紙にしている

誰もが地球のための一歩を踏み出せる
「FOOD MADE GOOD」のレストランへ

気候変動や海・陸での生物多様性の損失などSDGsで定められている解決すべき社会課題には、フードロス、リサイクルやエネルギー問題、フェアトレード、アニマルウェルフェアなど「食」と関係することがたくさんあります。そういった社会課題に対して何か行動を起こしたいけれど、何から始めたらいいのかわからずモヤモヤしている人も多いと思います。そんな方々に知っていただきたいのが、「FOOD MADE GOOD」に加盟しているレストランです。

サステナビリティを目指すレストランは、「FOOD MADE GOOD」に加盟して、協会からアドバイスを受けたり、勉強会に参加したり、加盟店同士も知恵を出し合うなど切磋琢磨して飲食業界にインパクトを与える行動を起こしているのです。そういったレストランを知り、食べに行くことで私たちも地球のためになる一歩が踏み出すことができますし、サステナブルの重要性をお店のメニューを見たり、スタッフと話したりすることで理解することもできます。

この記事を作った人

取材・文/藤田 実子 【PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO】撮影/今井 裕治

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