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更新日:2017.05.27食トレンド 旅グルメ 連載

アジア・フーディーズ紀行 vol.2:タイ・バンコク【GAGGAN】

上海、シンガポール、ソウル、台北、香港……アジアの混沌は、ガストロノミーにおいてもモダンを超越するのか? そんな直感を確かめるべく、アジア最先端の美食を巡った第2回。2年連続アジアNo.1のバンコク【ガガン】です。出張や旅行の際の店選びとしてもどうぞ。

アジア・フーディーズ紀行 vol.2:タイ・バンコク【GAGGAN】

アジアNo.1レストラン、タイ・バンコクの【ガガン】を体験

 2回目にして、真打ちです。そう、2015年、2016年と2年連続でアジアNo.1にノミネートされているバンコクの【GAGGAN】(2013年はNo.10、2014年はNo.3)。この後が続くのかと書いている自分でも心配になるのですが、何とかなるでしょう。出し惜しみをしても仕方がありません。
 ちなみに、日本では、「ガガン」と表記されていることが多いのですが、店の人の発音を聞いていると「ガガァン」くらいの方が近いようです。でも、紛らわしくなるので、ここでは「ガガン」にしておきます。

    大通りから、塀に囲まれた暗い路地を行くと、そこに驕奢な一軒家が見えます。ここが目的地の【ガガン】。植民地スタイルの洋館です

    大通りから、塀に囲まれた暗い路地を行くと、そこに驕奢な一軒家が見えます。ここが目的地の【ガガン】。植民地スタイルの洋館です

 バンコク・スワンナプーム空港2階の到着ロビーを出ると、すぐに4階の出発ロビーに向かいます。乗り換えではなく、ここでタクシーを捕まえます。時間帯にもよりますが、到着ロビーのタクシー乗り場は、長蛇の列ができていることも多いので、タクシーで市内に向かう場合は、これが一番早い方法かもしれません。
 アソークに取ったホテルにチェックインし、シャワーを浴びて、出かけます。BTS(スカイトレイン)の「チットロム」駅で降り、そこから徒歩で10分強。周囲を見たいと思って歩いたのが間違いでした。陽が落ちているのに、8月のバンコクは、それにしても暑い。したたる汗が止まりません。
 日本と比べれば、タクシーは格段に安いので、暑いシーズンは無理せずタクシーを使ったほうが無難でしょう。

これはアミューズか、前菜か。怒涛の小皿攻勢にメロメロ

 タイのトップ・レストランですが、タイ料理ではなく、インド料理。それも、「プログレッシヴ・インディアン・キュイジーヌ」と自称しています。
 メニューは、『GAGGAN EXPERIENCE』というコース1つのみ。4,000タイバーツ(約12,000円)なので、ワインなどのドリンクと合わせて2万円弱というのが予算でしょうか。

 オーナーのガガン・アナンド氏は、インド・コルカタ出身で、あのスペインの【エル・ブジ】で研鑽を積んだシェフ。その真骨頂は、席に着き、とりあえず頼んだスパークリングワインの後にすぐさま供された一品目から堪能できました。

 太めの試験管に入ったライチのエキス。添えられた実も頬張り、南国気分を味わった次には『ヨーグルトの爆発』と題された小品。口の中に入れると、表面が弾け、ジュースに近いヨーグルトが口に溢れます。プチッ、ジュワーっという感じ。
 そして、ゼラチンフィルムに入った粉末。これはなんとワサビのパウダー!
 こういった一口サイズのアミューズが3~4皿最初に出されるレストランなら多く体験してきましたが、【ガガン】のすごさは、まだまだ続くんです――。

 目の前に繰り広げられる料理の数々に付いていくのが精いっぱい。メニューを覚える気力さえなくなってしまいましたし、読んでくださる方も大変でしょうからメニュー名は端折ります。
 ただ、言えるのは、どれもがアイデアに満ちた品ばかりであること。今のところ、インド・テイストはそれほど強くありません。
 これらのプレゼンテーションは、【エル・ブジ】流とも言えますが、むしろ懐石に影響を受けているのでしょうか。
 この晩は出ませんでしたが、日本酒を使ったソルベに『酔っぱらいのサムライ』というタイトルを付けていたとか。聞くところによると、相当な日本びいきのようです。
 そう思うと、ユニバーサル・テイストの懐石というような新ジャンルの料理と言っていいような気がします。

 野沢菜のようにあしらった青菜の上に鰻が載った皿に続き、ようやく少しインド的なテイストに戻っていった『黒にんじんのアイスクリーム、にんじんのクリスピー・フラワー』。
 サービスマンが、「これは驚きますよ」と持ってきた『チャコール(木炭)』。タネを明かせば、イカ墨のフィッシュ・コロッケです。
 そして、『マジック・マッシュルーム』。言葉遊びでしょうが、ジオラマのようにあしらったキノコとトリュフの意外性には、確かにちょっとだけ"魔法"を感じてしまいました。

ガガン流『抹茶』の解釈から、ストレートな旨さに急展開

    『レッド・マッチャ』。日本人だからこそ、この面白さを楽しめるのかも

    『レッド・マッチャ』。日本人だからこそ、この面白さを楽しめるのかも

 テーブルの前に座りながらも、ポケモン集めに右往左往スポットを歩き回るような体験をした後に、急展開。次の『レッド・マッチャ』は、料理名の通り、抹茶スタイルです。
 まずはトマトとブドウの実を食べた後、専門のスタッフが 茶筅(ちゃせん)で赤い液体を泡立てます。啜ってみると、酸味が聞いたスープ。一瞬何これ?と思いましたが、冷静に味わうとトマトのお茶でした。ブドウを食べることで、少し味覚が錯覚を起こしていたよう。こういったマリアージュも面白いものです。

    『子羊のタンドリ』。メインは王道!

    『子羊のタンドリ』。メインは王道!

 次はどんな技がくるか?とドキドキしながら待ったメインの子羊。サンスクリット文様のようにあしらわれた、ゼラチン状のソースに目を奪われますが、かなりストレートなテイスト。いい意味での肩透かしですね。純粋に肉の旨みが出ています。

  • インド現地の弁当箱型のブリキの器で供される、キッチュなプレゼンテーションはお手の物

 最後は、3種のカレー。こちらも単純に美味しいカレーでした。今まで食べてきたものの中で、確実に5本の指に入るクオリティ。

 人の好みは様々でしょうが、個人的にこのコース展開は好きなタイプです。
 例えば、あのデンマーク・コペンハーゲンの【noma】に行った方々のなかからは、小皿料理で始まり、そのまま終わっていくスタイルに、「どこで盛り上がればいいのかよくわからなかった」という話も聞きます。
 一方で、この【ガガン】は、前半でかなりの冒険をしながらも、メインの肉→〆のカレーとクライマックスを付けています。
 そのあたりは、やはりインド人シェフなのでしょう。イノベーティブでありながらも、インド映画のようにきちんと楽しませるツボを押さえたストーリーを心得ているように思えます。

体験型でもある【ガガン】をめぐる3時間の小トリップ

 デザートにも、一興が潜んでいました。
 一見、半球のソルベなのですが、スプーンでハンマーのように叩いてくださいと促されます。その言葉通りに行ってみると、予想以上に勢いよく弾けます。
 せっかくのきれいな皿が……と思ってしまったのですが、ここでサービスマンが「ビューティフル」と楽しそうに微笑んでくれました。それを聞いて、「ああ、なるほど」と、こちらもにんまりしてしまいます。

  • 客がスプーンで叩いて壊す、デザート。失敗! と思ったのだけど…

 20世紀美術の巨匠マルセル・デュシャンが、作品である便器が搬送の際の事故でヒビが入ってしまったことに「より美しくなった」と語ったことがあります。そんな逸話のように、【ガガン】の料理には、ある種のハプニング・アートのような感覚も含まれているのだろうと、先のサービスマンの言葉からうかがえます。
 料理の話なのに、たとえが悪かったでしょうか。それなら、ペンキを投げつけることでアート作品にしたジャクソン・ポロックのような新表現主義を引き合いに出してもいいかもしれません。
 いずれにしても、客の手を使わせることによって(そして、壊すことによって)、料理を完成させるところに、そんなスタンスを感じました。
 そもそものコース名も「EXPERIENCE(=体験)」です。

  • ロリポップ・スタイルの小菓子の出し方は、【エル・ブジ】系ではもはやお約束? 下は〆の小菓子3種

 やはりアジア50ベスト・レストランでNo.1であることに触れておかなければならないでしょう。
 このランキング自体、ミシュラン星付きの料理人を中心に評論家、一般の食通たちに投票権があるランキングなので、評価に偏りがあるのではないかという批判も聞こえます。そもそもランキングを付けること自体、文化的に成熟していない証でもあるのではないかとも。
 でも、こう思うのです。順位はあくまで訪れるきっかけでしかありません。誰かにとってまだ知らなかった良い店を知るきっかけをつくるために、ランキングは有効でしょう。
 とはいえ、本当に重要なのは結果です。自分にとって合うか合わないか、客観的にすごいものかどうかがすべてです。

 ナンバーワンかどうかを評価するほどおこがましい人間ではありませんが、少なくとも今の私にとって、この【ガガン】は、"体験型のレストラン"としてオンリーワンになったことは事実です。
 あなたにとってはどうか? それを確かめに、ぜひバンコクを訪れてほしいと思います。

GAGGAN

営業時間:ディナー18:00~23:00(原則的に18:00~18:30と21:00~21:30の2回スタート)
定休日:無休
電話番号:+66 2 652 1700
email:info@eatatgaggan.com

予約の仕方

 基本は英語かタイ語。電話のほか、6名以下の予約は、HPの予約フォームから送るのが便利。即時予約ではなく、フォームから希望日・人数を入力して送信すれば、確定のメールが届きます。ただ、メールのリアクションは若干遅いので、早めのコンタクトがオススメ。
 今回は、月曜日21:00からの回を約10日前にリクエスト。なかなか返事がこなかったので、諦めていたら、4日後に席は確定、デポジットのクレジットカード番号を知らせてくださいというメールが届きました。
 当日は、ほぼ満席。週末やハイシーズンには早めの予約が必要だと思います。

ドレスコードや店の雰囲気

 日によってある程度違いはあるでしょうが、接待会食よりもデートや旅行客などプライベートな利用が多いようです。タイ人、欧米人、中国人、日本人とまんべんなくいる客層でした。
 男性なら、トップは襟付きで。ボトムは半ズボン、ビーチサンダルはNG。清潔感はマストということさえ気にしていれば大丈夫でしょう。
 女性も、それほど堅苦しくはないですが、アジアNo.1レストランなのでオシャレして行ってください。
 

次回もバンコク。タイ料理の進化に迫ります!

この記事を作った人

撮影・取材・文/杉浦 裕

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