静岡の最高食材を堪能できる天ぷらの名店【日本橋 蕎ノ字】鈴木氏が選ぶ日本酒5選|SAKENOMY
全国1300軒を超える酒蔵や数万を超える日本酒情報をお届けしている、日本酒ソムリエアプリ「SAKENOMY」。日本酒をよりおいしく、楽しんで欲しいと、飲食店のプロが日本酒と料理の合わせ方のコツを提案。今回は【日本橋 蕎ノ字】の鈴木さんが登場。天ぷらと日本酒のペアリングをご提案いただきました。
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『鮎の天ぷら』 × 「開運 純米大吟醸 伝 波瀬正吉」
『雲丹の大葉巻き』 × 「十四代 龍月」
『HAL Caviar(ハルキャビア)海苔の天ぷらのせ』 × 「大村屋 重兵衛 純米酒」
『牡蠣(広島/かなわ水産)の天ぷら』 × 「亜麻猫」
『そばがき』『〆の蕎麦』 × 「初亀 純米大吟醸 亀」
【日本橋 蕎ノ字】
店主の鈴木利幸さんの実家は、静岡県島田市にある蕎麦店。調理師学校を卒業後、実家で蕎麦打ち修行を7年、地元の日本料理店で2年修業をしたのち、2000年に地元の島田で「天ぷら食って蕎麦で〆る」をコンセプトに『蕎ノ字』を開業した。温暖な気候と水に恵まれた静岡産ならではの美味しい野菜や駿河湾の魚介で揚げる天ぷら、最後に喉越しのよい蕎麦ですっきり〆ることができるとあって評判に。いつかは天ぷら・蕎麦の老舗名店がしのぎを削る東京・日本橋で勝負したいと目標を掲げていた鈴木さんが満を侍して移転を果たしたのは2016年10月のこと。静岡産の食材にこだわると天ぷらと食後感をすっきり〆る蕎麦ですぐに注目を集め、3年後にはミシュランの1つ星を獲得。女将との二人三脚による温かなホスピタリティもあいまって、予約至難の店となっている。
郷土愛に溢れる鈴木さんは、日本酒も地元島田に酒蔵がある大村屋酒造場の「若竹」「重兵衛」を中心に、静岡にこだわっていたが、2年ほど前からは、コースの中でピンポイントにすすめるペアリングやマリアージュも意識しはじめたという。その思いを伺った。
天ぷらでワインというスタイルが定着して久しく、もちろんワインもご用意していますが、私は、日本の食文化を代表する天ぷらですから、やはり日本のお酒で楽しんでほしいと思っています。地元愛が強いんです(笑)。静岡・島田にいるときは、地元の蔵、大村屋酒造場のお酒が中心でした。小さな蔵なので地元だけで飲まれているようなお酒ですが、「重兵衛」は冷やからぬる燗までいけるオールマイティなお酒で、どんな食材にも静かに寄り添ってくれるのです。県外からいらっしゃるお客様からも「これはハマるね」と喜んでいただいていました。ペアリングというよりも、いくつかのタイプを揃えてお客様の好みで選んでもらうという提供の仕方が主でした。
東京に移転してからは、さまざまな日本酒を試飲させていただく機会にも恵まれ、「あっ、この酒はうちの茄子に合わせたい」とか「これは蕎麦だ」など頭にポンと浮かぶので、女将と一緒に色々食べ合わせも試してみるようになりました。マリアージュを発見すると、ついついお客様に思いを語りたくなりますが、伝えすぎると場が興ざめしたり、ガチガチのペアリングはズレが出てきたりすることもあるので、基本的にはお客様の好みやペースを大切にしています。そして、こちらから提案するときはどっしり→どっしり→すっきりなど緩急をつけるよう心がけています。数量限定など入手困難のお酒はピンポイントで「この天ぷらにはこれが合います」とお出しするとお食事とお酒をより楽しんでいただける雰囲気に。このような高揚感も大切に、飲めば飲むほど気持ちよくなるようないいお酒の演出ができたらと思っています。
1.『鮎の天ぷら』 × 「開運 純米大吟醸 伝 波瀬正吉」
7月から秋までお出ししている天龍川の鮎には、マリアージュ的にピンポイントで「伝 波瀬正吉」をお出ししています。波瀬正吉さんは、能登杜氏の四天王の一人と言われていた方で、1968年から30年にわたって静岡の土井酒造場で杜氏を務めていました。波瀬さんの亡き後その伝統を受け継いで仕込まれている「開運」の最高峰のお酒です。香りはフルーティでとてもエレガントですが、味わいとしては口に含んでしばらくすると、酸味の中に懐かしい味わいが感じられるのですが、これが鮎の肝の苦味にものすごく合うのです。静岡を代表する歴史ある酒蔵の数量限定酒ということもあり、印象的な出し方をすることでお客様にも喜んでいただいているようです。
2.『雲丹の大葉巻き』 × 「十四代 龍月」
コースの後半にお出ししている雲丹の大葉巻き。筒状に揚げて、とろりと溶け出す雲丹を楽しんでいただきます。雲丹や貝など海の香り、ミネラルの味わいが強いものには、メロン香など甘く上品なフルーツの香り、甘みのあるお酒が合うと言われていますが、まさにその通りだと思います。「十四代 龍月」も入手困難なお酒なので、マリアージュ的に一杯お出しすると喜ばれます。クリーミーで甘味のある雲丹を、しっかりとした甘みで受け止めながらも、キレのよい軽快な喉越しで次の天ぷらに繋げてくれます。フルーティで甘みが際立っている十四代のお酒は、南瓜や薩摩芋など根菜に合わせても甘みの相乗が楽しめていいですね。
3.『HAL Caviar(ハルキャビア)海苔の天ぷらのせ』 × 「大村屋 重兵衛 純米酒」
「HAL Caviar(ハルキャビア)」は、静岡県の春野町という南アルプスの最南端、水の綺麗な場所で養殖されているチョウザメのフレッシュキャビアです。注文が入ってからお腹を割き、店からオーダーした塩加減で送ってくれるので、雑味がなく極めてクリアな味わいなのです。「重兵衛」は、私が静岡・島田でお店をしている時からずっと使い続けている愛すべき地元の小さな酒蔵のお酒です。島田産の五百万石と大井川の伏流水で仕込んだ純米酒で、香りが穏やか、旨味と若干の甘みで主張はしないものの、並走しながら料理を引き立ててくれる食中酒として気に入っています。蕎麦に合わせても飲み心地よく、おいしい水を引き立てる何かがあるのかなと感じていたので、HAL Caviarと一緒に飲んだところ、より一層透明感のある味わいに!昨年発見した感動のマリアージュです。
4.『牡蠣(広島/かなわ水産)の天ぷら』 × 「亜麻猫」
天ぷらにして納得できる牡蠣が静岡にはなかったので、揚げていなかったのですが、昨年広島のかなわ水産の牡蠣に出会い、秋から初春までのコースに入れることにしました。この牡蠣が育てられているのは、瀬戸内最大の無人島にして、一番綺麗な海水と言われる大黒神島周辺。海の香りを含む清浄な味わいには、貝類のミネラルの味を引き上げるお酒を、ということで、綺麗な酸を持つ新政の「亜麻猫」をお猪口で一杯お出ししています。牡蠣にはレモンをかけたくなりますが、この「亜麻猫」がその役割を果たし、牡蠣の香りと綺麗な海水の味を引き立ててくれるのです。
5.『そばがき』『〆の蕎麦』 × 「初亀 純米大吟醸 亀」
静岡では最も古い酒蔵ですが、あまりに有名ということもあって店では扱っていませんでした。東京に移ってから機会があって試飲したところ、直感的に私の天ぷらにも蕎麦にも合うと感じました。「亀」は、初亀を代表する純米大吟醸であり、プレミアム酒として入手が難しくなっているお酒です。-7℃で3年間熟成させているので、丸みを帯びた優しい口当たり。香りも上品な美しい味わいなので、食事の後半、油をきりっと流しながらも身体にすーっと染み入るように飲めるので飲み疲れしないのです。締めの蕎麦にも寄り添い、水の美味しさを感じさせてくれる綺麗な余韻。〆酒としておすすめしています。
故郷静岡の食材に合わせて、日本酒も静岡産を。バックグラウンドが似ていれば必ず寄り添ってくれる、という鈴木さん。郷土愛で美味しいものを全国に発信するという使命感も魅力だ。東京移転後はそこだけに留まらず、さらに視野を広げて食材もお酒もよりよいものを厳選。日本酒のすすめ方も、万能の食中酒をベースに、ピンポイントでペアリングやマリアージュを提案できるようなラインナップを心がけ、料理も日本酒も楽しめる工夫を怠らない。また、-5℃で管理できるセラーも導入し品質管理にも努めている。これは鈴木さん自身、管理の違いで同じお酒がまったく違う味わいになるということを痛感したからだという。「野菜や魚介などの食材同様、お酒の管理も飲食店の務め」と鈴木さん。つくり手と食べ手を繋ぐ責任感、人を思う気持ちが、天ぷら、蕎麦、お酒にも貫かれているからこその繁盛店なのだと納得した。
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取材・文:藤田実子 画像提供:日本橋 蕎ノ字
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