黒い海のダイヤ!? “安全”に命をかけた職人がつくる牡蠣「くにさきOYSTER」fromおいしいニッポン物語
限りなく100%に近い安全性が担保され、サクッとした独特の歯ごたえやミネラル感の凝縮した味。他にはない強烈な個性を持つ牡蠣がシェフたちの間で話題となっている。その名は『くにさきOYSTER』。限りなくノロウィルスの発生を抑えたという、安全で美味しい牡蠣の秘密が知りたくなり、生まれ故郷、国東(くにさき)半島を訪ね、唯一無二の生産現場を取材した。
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国東という地で牡蠣を愛した男がつくった、どこにもない牡蠣
牡蠣の授精、幼生の餌、干潟での育成……何から何までオリジナル
牡蠣の水揚げ以降、出荷まで徹底される安全管理
国東という地で牡蠣を愛した男がつくった、どこにもない牡蠣
さて、くにさきOYSTERは、神々が宿る半島の北東部に位置するヤンマーマリンファームで作られている。それは、大分空港から10分ほどの場所、海洋資源の研究のために30年前に建設された施設だ。
くにさきOYSTERが作られている養殖場。元は車海老の養殖場だった場所が再利用されている。人口が少ない場所ゆえ、水質がいい
農業機械の名門企業「ヤンマー」が、なぜ牡蠣?と不思議に思う人もあるだろう。実は、ヤンマーは小型船舶のエンジンでは世界のトップシェアを占めており、漁船つまり漁業とも深い関わりを持っているのである。
長年、第一次産業をサポートするというこれまでのスタンスを、創業100年を機に、食材そのものの生産にも積極的に取り組んでいくべく路線を変更した。この5年、力を入れている牡蠣の養殖事業もその一環である。
加藤元一さん。牡蠣養殖の先進国オーストラリア・タスマニアで視察した手法を取り入れ、厚岸での牡蠣養殖を成功させた牡蠣養殖の第一人者だ
マリンファームでは、以前から、あさり、牡蠣、とり貝などの二枚貝の幼生を育て、産地へ出荷するビジネスを行っており、北海道・厚岸で牡蠣養殖を成功させた加藤元一さんを研究者とし、牡蠣の養殖を始動させた。
幼生のためのプランクトンを育てる施設。安全な貝を育てるためにベースとなる海水は、ノロウイルスよりも細かいフィルター(中空糸膜)を通してから使う
12年前、大分県では下降線をたどっていた水産業を回復するために、“捕る漁業から、育てる漁業へ”のスローガンをたてていた。車海老の養殖事業が打ち切りになった干潟で何かできないだろうかと、県がヤンマーに話を持ちかけたことが、くにさきOYSTERの誕生の始まりだ。
牡蠣の授精、幼生の餌、干潟での育成。何から何までオリジナル
加藤さんが選んだ牡蠣は広島系のマガキだ。日本固有の純血種で、色が黒く、食味がいいのが特徴だ。マリンファームでの牡蠣養殖は、研究所での幼生づくりと、育てた稚貝を海で育てる二段階に大きく分かれる。独自の手法で水質が管理された海水で満たされた水槽の中で雌雌を選別した貝を受精させ、幼生を生み出す。
干潟の潮が引くと、籠が空気中に露出する。満ちると水中へ。初期はこの干潟で三角形の特殊な籠の中で育てる
クリーンな海水で幼生を育てるためには、えさとなるプランクトンが必要となるが、良質なプランクトンを作り出す技術こそが、ヤンマーが開発した最大の技術の一つである。濃縮された原液に光をあてて光合成を促し、プランクトンを量産する。
海から上げたら、貝に付着したフジツボや汚れを人の手でひとつずつ取っていく
幼生が小石大になったら、海へ。オーストラリアに特注した、三角柱の金属製のかごに100個ほどの牡蠣を入れ、干潟に移す。干潟というのはご存知の通り、潮が引いているときは砂地が現われるが、満ちてくればケースはすっかり海水につかってしまう。
通常の国産の牡蠣養殖は、ロープにホタテの貝柱をつるし、受精卵の多い海域に沈める。幼生は付着する性質を持っているため、ホタテの殻について成長を始めるからだ。しかし、くにさきOYSTERはすでに貝になった状態で海に戻すため、こうした独特の手法で生育が可能になった。
TOPシェフたちが虜になった『くにさきOYSTER』
「ずっと海中につるしておく従来の方法のほうが成長は早いのですが、ヤンマーでは、あえて干潟で育てています。そして稚貝の成長に合わせて、ケース内の密度を適正に保つために移し替えるんですね。大体2月に産卵・受精させ幼生を育て、5~8月は干潟で稚貝を育てる。9~10月はかごを沖合へ移して充分に栄養をとらせ、11月~12月に干潟で仕上げて出荷、というサイクルです」と加藤さんはこともなげに言うが、頭が下がる仕事量だ。
こうして、通常の何倍もの手間と時間をかけて、収穫するまでの牡蠣が出来上がる。
牡蠣の水揚げ以降、出荷まで徹底される安全管理
ヤンマーマリンファームが牡蠣づくりにおいて、最も重視しているのが、安全性ということだ。牡蠣にあたる一番の原因はノロウィルス。しかしながら、牡蠣自身にはノロが発生する要因はない。なぜなら、ノロは人間と一部の霊長類にしか発症しないウィルスだから。
サンプルを検査に出し、結果が出るまでの間、ろ過した海水でクリーンな状態に保たれている出荷待ちの牡蠣
にもかかわらず、牡蠣がノロを保有するというのは、生息する海域に、生活排水などからノロウィルスが入り込んでしまうか、もしくは保菌者が調理することによる以外にはありえない。やっかいなことに、ノロは大腸菌の1/500というサイズで熱にも強い。生活排水から完全に遠ざけることと、検査レベルを上げることでしか、排除することはできない。
梱包の際も、1個1個の牡蠣をスタッフが検品し、宝物のように優しく扱いながら、シートを敷いた発泡に詰めていく
そこでヤンマーでは、危険因子を排除した海水で幼生を育て、さらに汽水域からは遠い干潟で養殖する。定期的な海水の検査とともに、月曜日に収獲後、無作為抽出したサンプルを検査に出し、OKであれば、最終的に清流で24時間ろ過し、金曜に出荷。
まさに、黒いダイヤ。剥きたてをそのまま食べるだけでご馳走だ
こうして何重にも検査をすることで、危険因子を限りなくゼロに近づけている。検査の費用がかさむため、個人の生産者では、到底この規模の検査ができない。企業が本気で取り組んでいるからこその精度といえよう。4年間、35万個以上出荷し、牡蠣を起因とする食中毒事故は1件もない。これが職人がつくる牡蠣「くにさきOYSTER」なのだ。
写真/今清水隆宏 取材・文/小松宏子
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