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更新日:2022.09.09食トレンド

松山ケンイチ・ムロツヨシ インタビュー|映画『川っぺりムコリッタ』~二人のオススメお取り寄せ&差し入れもご紹介~

映画『かもめ食堂』や『彼らが本気で編むときは、』などを手掛けた荻上直子が、監督、脚本、原作を務める『川っぺりムコリッタ』(2022年9月16日公開)。今回は、主人公を演じた松山ケンイチさんとムロツヨシさんに、作品の裏話や、今回の役柄について、さらにお二人のオススメお取り寄せ&差し入れグルメについても伺いました。

松山ケンイチ・ムロツヨシ

~Story~

刑務所から出てきたばかりの孤独な青年・山田(松山ケンイチ)。北陸の小さな街の、小さな塩辛工場で働き口を見つけ、「ハイツムコリッタ」という古い安アパートで暮らし始めます。無一文に近い状態でやってきた山田のささやかな楽しみは、風呂上がりのよく冷えた牛乳と、炊き立ての白いごはん。ある日、隣の部屋の住人・島田(ムロツヨシ)が風呂を貸してほしいと上がり込んできた日から、山田の静かな日々は一変します。

    松山ケンイチ・ムロツヨシ・満島ひかり・吉岡秀隆

    © 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

誰とも関わらず生きようと決めていた山田でしたが、「ハイツムコリッタ」には大切な人の死に直面した人たち――夫を亡くした大家の南(満島ひかり)、息子と二人暮らしで墓石を販売する溝口(吉岡秀隆)――が生きていて、落ちこぼれだけど人間らしいハイツの住民たちと関わりを持ち始めたことで、「いつ死んでもかまわない」と思っていた山田は、少しずつ“ささやかなシアワセ”に気づいていきます。人と人とのつながりが希薄な社会で、人はどうやって幸せを感じることができるのか。友達でも家族でもない、でも孤独ではない。こんな時代だからこそ見てほしい、新しい「つながり」の物語です。

Interview

――松山さんはこの作品の台本にほれ込んでオファーを受けたと聞きました。台本のどんなところに魅力を感じ、山田という人物のどんな部分に惹かれましたか?

松山ケンイチさん(以下、松山):荻上監督の前作『彼らが本気で編むときは、』を観て、すごい衝撃を受けたんです。決して派手な映画ではないし、静かな映画なんですけど、自分がいままで出会ったことのなかったトランスジェンダーの方の話だったり、男性器の形をしたぬいぐるみが飛び交うような画(え)があって、言葉では言い表せないほどの衝撃を受けたんです。あの映画を観たことで、トランスジェンダーの方たちを身近に感じることができたし、自分の中に存在させることができました。

今回も『川っぺりムコリッタ』の台本を読んでみて、自分の中にいままで存在していなかった、認識できていなかった人たちの物語だなって思ったんです。じゃあ実際に撮影をしてみて、役を演じてみて、“自分は何を感じるんだろう”ということにすごく興味があったのと、『彼らが本気で編むときは、』で僕に衝撃を与えてくれた荻上監督と一緒に何かをつくってみたい、と思ったのでオファーを受けました。

    松山ケンイチ

    シャツ12,100円(J.PRESS/オンワード樫山 お客様相談室 ☎︎03-5476-5811)、靴 71,500円(パラブーツ/パラブーツ 青山店 ☎︎03-5766-6688)、他スタイリスト私物

――今回の作品における“自分の中にいままで存在していなかった人たち”とは、どのような人物なのでしょう。

松山:生きていると、苦しみを感じることってありますよね。でもその反対側にある喜びや小さな幸せも、どっちもある、と思っていて、だけど、苦しみのほうが目立つから、喜びや幸せを見逃しがちだったりするんです。でも、僕が演じた山田という人間は、同じハイツの住民にかき回されていく中で、小さな幸せや生きる喜びを実感していくんです。それは、このハイツのみんなが幸せだから山田もその幸せに感化されたのではなく、それぞれが苦しみながら生きている中で、お互いが感じ合い、気づいていく話だと思ったんです。

僕自身も、気づけなかった幸せもあっただろうし、逆に傷ついてきたことの実感や違和感みたいなものもなんとなく心に残っていて。だから、この作品を通して自分のことを観察してみようと思えたし、自分の中に足りていない、気づけていない何かをこの作品が教えてくれているような気がしたんです。

    川っぺりムコリッタ

    © 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

――ムロさん演じる島田は、初対面でお風呂を借りようとしてしまう厚かましさがある反面、山田の弱さにすぐに気づき、寄り添うやさしさも兼ね備えているように感じました。この役柄にどのように向き合い、演じられたのですか?

ムロツヨシさん(以下、ムロ):僕が演じた島田は、一見、愉快で人懐っこい人かと思いきや、実は苦しい過去や傷、後悔を背負っている男でございます。本編で島田の過去が描かれているわけではないのですが、監督から説明をいただきまして、大きな過去を背負っているけれど、できるだけ表には出さず、明るく過ごしたり、山田が隣に越してきた喜びをしっかりと表現するようにしました。何を考えているのかわからないが、山田という人間が好きだったのかもしれないですね。

    川っぺりムコリッタ

    © 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

――孤独だけれど、どこかで人との関わりを求めている、普遍的な人間の在り方が感じられたのですが、やはりそれぞれ演じられたキャラクターもつながりが欲しかったんですかね。

ムロ:島田という人間は、人を怖がっているし、一人でいることも怖がっています。誰かといすぎることも怖がってます。ではなぜ、彼はあのハイツに住み、ひとり野菜をつくっているのか。それもすべて、いろいろなものを怖がった結果なんだろうなと捉えました。

だけど、隣に越してきた山田の家からはすごくおいしい炊きたてごはんの香りがしてくるから、近づきたいし、山田とは一緒にいれるんじゃないか、という希望も抱いている。だから、窓の外から山田の部屋を毎日覗いていたんだと思います。

松山:「生きることに意味はあるんだろうか」と思う反面、“生き延びる性(さが)”が遺伝子の中にはあって、そこに矛盾があるからすごく苦しいんですよね。本当は生き延びたいって感情が人にはあって、そのためにはどう考えても一人じゃ生き延びられないんですよ。家族がいるとか、友達がたくさんいるとか、そういうことじゃなくて、目の前の人と協力関係を結ばないと生き延びていけないんですよね。

もしかしたら山田は、このハイツに来るまでは、「生きている意味はない」と断定していたかもしれない。だけど、島田が部屋に来てくれてホッとしたり、緒形直人さん演じる沢田のような、“暑苦しい”工場長にも救われている。人はこれからどう生き延びていけばよいのか、そのヒントになる映画だと思いますね。いまは、人を大事にするってことが本当に重要になってきていると思います。

――お二人でのシーンが多かったのですが、その中でも印象に残っているシーンはありますか? また共演された皆さんの印象を教えてください。

ムロ:アレ、楽しかったよね、二人でご飯を食べるシーン。隣人が島田であったことを受け入れざるを得ない山田が、二人の縁を認め、徐々に二人の距離が縮まっていく感じがよかったですね。

    川っぺりムコリッタ

    © 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

松山:撮影したのはもう2年も前なんですけど、結構覚えてますね。皆さんそれぞれ静かなんですけど、印象に残る演技をされていて。(柄本)佑君なんか撮影が2日しかなかったんですけど、小道具の“遺骨”を使って、「この喉仏、よくないですか?」って楽しそうに撮影をしてました(笑)。

ムロさんの今回の役柄は、いつものムロさんと印象が違って、なんかもろさが出ていてすっごく好きだったんですよね。(満島)ひかりちゃんからは強さを感じました。技術とかそういうことじゃないんでしょうけど、あんなに華奢でどっからそんなパワーが出てくるんだろうって思うくらい。「妊婦蹴りたくなる」ってセリフがあるんだけど、本人が言ってるんじゃないかって思っちゃうくらい(笑)、強さを感じました。

    川っぺりムコリッタ

    © 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

松山:吉岡(秀隆)さんは、「この人、近づいたら危なそうだな」っていう雰囲気があって……。

ムロ:もちろん、役柄がね(笑)。

松山:あれはあれで、ひかりちゃんとは違う強烈さですよね(笑)。それに共演した子どもたちの北村光授(こうじゅ)くんと松島羽那(はな)ちゃんも好き勝手やってましたよね。みんな面白かったです。僕らはこの登場人物のように、家族でも友達でもないんだけど、チームとして撮影に臨み、お互いを支えあうことで、“小さなシアワセ”を共有できた気がします。

    川っぺりムコリッタ

    © 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

――「ハイツムコリッタ」には大切な方を亡くされた方がいて、それぞれの方法で死と向き合い、弔います。この映画に参加されて、お二人の「死生観」は変わりましたか? またどんな人生の終わりを迎えたいと感じましたか。

ムロ:いま、「舞台上で死にたい」って言ったらすごくかっこいいだろうな、って思いました(笑)。僕はあんまり考えたことなかったですね。死にたくない、というのとも違うんでしょうけど。ただ、40歳を過ぎると「いつか死ぬんだろうな」と思うことが少しずつ増えてきて、我々の世界に限らず、どの世界にもショッキングなことが多くて、急に誰かがいなくなってしまう恐怖もあるし、自分がいつそっち側に行くかわからない時代だと思うんですよね。絶対にそうはならない、とは言い切れないというか……。

でも、やっぱりここは「舞台上で死にたい」はどうでしょう(笑)。松山君は理想の死に方ってある?


松山:僕、ありますよ、完全に老衰ですね。老衰になるためにはいま健康じゃないといけないんです。いますぐには絶対に死ねない。だから、どういう死に方をしたいのかはいつも考えています。

確か、撮影していた2020年9月頃って悲しいニュースがいくつかあって、とても死を意識する時期でもあったんです。そんな中、4人(松山・ムロ・満島・吉岡)で待ち時間のときに、「死にたいって思ったことありますか?」って、普段だったら絶対に聞かないようなことを聞いてましたね。それはこの題材で、あの時期で、あの瞬間でしか聞けなかったことだと思うし、死に対する共有って、家族でもなかなかできることじゃないから、本当に貴重な時間だったし、それを共有できたことがうれしかったですね。

    松山ケンイチ・ムロツヨシ

――劇中で野菜を育てるシーンがあったのですが、実際に松山さんは私生活で農業をされていると聞きました。普段の農作業が演技に役立ったなぁ、と思ったことはありましたか? 

松山:クランクインした2020年って、僕も農業を始めたばかりだったんです。その前の年からトマトとかを育て始めたので、まだそこまで詳しくなくて。ただ、映画の中でムロさんが「ほら、トマト採ったからおすそ分け。食べな」って僕の部屋にトマトときゅうりを置いていくシーンがあったんですが、せっかく農業を始めたなら野菜の採り方で嘘をつきたくないなって思って。トマトを収穫したときにヘタが残るのか・残らないのか、そのとき現場に来ていた農家さんに聞いたんです。

ムロ:専門家の方に来ていただいてたもんね。

松山さん:そしたら、大きいトマトは収穫したときにヘタが取れないから残る、ミニトマトだと熟していればヘタが残らない、って教えてもらいました。(映画のパンフレットを見ながら) あ、やっぱそうだ! 大きいトマトにはヘタがついてるけど、小さいのにはヘタがついてない!

    川っぺりムコリッタ

    © 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

――本当ですね! ムロさんは松山さんから野菜や農作業について、教えてもらったことはありましたか?

ムロ:僕は松山君に「いのちの授業」をしてもらいました。松山君はニワトリを育てていて、子どもたちと一緒に捌いて食べて、“命をいただく”ということを教えているそうです。僕はその話を「いのちの授業」として聞いていました。“命をいただく”ということがどういうことなのか、命ある状態から、見て、食べて、学ぶ。それはとてつもない経験だから、子どもたちにとって大きな財産になりますよね。いつか松山君の家に行って教わりたいなと思っています。

    ムロツヨシ

――それはとても貴重な体験ですよね。食べる=生きる、だと私も思っていて、劇中で皆さんが食べている姿が“生きる姿”として力強く描かれているように感じました。そんなお二人のパワーの源になっている「食」を教えてください。

松山:僕は腹を壊すと、十二社通りにあるつけ麺屋にいつも行っていたんです。

ムロ:あ、知ってる! あの店に一番行っている俳優は、松山ケンイチ、で有名でしたね。でもそこ閉まっちゃったよ。

松山:そうなんです。だから僕、腹を壊してもそのつけ麺屋がなくなっちゃったんで、東京にいるのがキツいんです。風邪ひいたり、腹壊したりしても、あそこのつけ麺を食べると治っていたんです……。

――でも、そこが閉店してしまったと。

松山:そうそう。ジンクスじゃないですけど、薬とか飲めばいいのに、食で治すってこと、ありますよね?

ムロ:腹壊してつけ麺食べるって人、初めて聞いたよ(笑)。

松山:でもよく考えてみてくださいよ。具合が悪い時にこれ食べると調子がよくなるって食事、ありません?

ムロさん:あ、俺ある! どこで得た情報か知らないんですけど、おばあちゃんから「熱が出たらバニラアイスを食べなさい」って言われてたんです。だから体調が悪くなるとバニラアイスをすごい食べさせられました(笑)。いまでも体調が悪いとバニラアイスを食べることがありますね。

松山:でも、それって僕には通用しないんですよね。

ムロ:そうなんだよね。

松山:人それぞれ体に合った対処法が“食”であるんですよ、薬じゃなくて。これは一人一人が追求していくしかない。それは面白いなって思いますね。食事って、薬なんですよね。

――ありがとうございました。では最後に、お二人がついついお取り寄せしてしまう「お取り寄せグルメ」や、撮影現場への「差し入れグルメ」を教えてください。

松山ケンイチさんの「絶品お取り寄せ」

【蛯米(えびよね)水産加工】の『イカの黒作り』

    【蛯米(えびよね)水産加工】の『イカの黒作り』

    公式サイトで販売。箱入り 70g 561円、100g 788円、200g 1,350円(税込/送料別)

富山の「黒作り」っていう塩辛ですね。今回、塩辛工場の蛯米(えびよね)さんで撮影させてもらったんですけど、いままで塩辛ってほとんど食べたことがなかったんですが、そこでいただいた黒作りがすごくおいしくて。ピンク色の“いわゆる塩辛”ってちょっとしょっぱさを感じると思うんですけど、黒作りの塩辛はマイルドな甘さも感じるんですよね。とても食べやすくて、それ以来、お取り寄せしています。

ムロツヨシさんの「テッパン差し入れ」

【おめで鯛焼き本舗】の『お好みたい焼き』

    【おめで鯛焼き本舗】の『お好みたい焼き』

    鯛焼きの常識を覆す、キャベツとベーコンが入った、お好み焼き風の鯛焼き。

緑山スタジオの近くにある【おめで鯛焼き本舗】が好きですね。あんこやカスタードなどいろんな味があるんですけど、その中で僕が好きなのはお好み焼きの具材が入っている『お好みたい焼き』です。力仕事をしているスタッフさんとかに差し入れすると喜ばれますね。

※全国に店舗があるので詳細は公式HPをご確認ください

撮影/今井裕治 ヘア&メイク/勇見勝彦(THYMON Inc.) スタイリング/五十嵐 堂寿 <松山ケンイチ担当>、ヘア&メイク/池田真希 スタイリング/森川雅代 <ムロツヨシ担当> 取材・文/嶋亜希子(ヒトサラ編集部)

Informatin

『川っぺりムコリッタ』
2022年9月16日(金)より全国ロードショー

    川っぺりムコリッタ

    © 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

出演:松山ケンイチ ムロツヨシ 満島ひかり 江口のりこ 黒田大輔 知久寿焼 北村光授 松島羽那
柄本 佑 田中美佐子 薬師丸ひろ子 笹野高史 緒形直人 吉岡秀隆
監督/脚本:荻上直子『かもめ食堂』『彼らが本気で編むときは、』
配給:KADOKAWA

© 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

この記事を作った人

撮影/今井裕治 取材・文/嶋亜希子(ヒトサラ編集部)

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