割烹スタイルで、炭火焼肉を味わう肉の新生|銀座【おか﨑】
プラントベースやヴィーガンシフトのレストラン等々、肉ブームの後は、またもや野菜ブームの再燃?と思わせる昨今だが、まだまだ肉の人気は根強いもの。焼肉、焼鳥、とんかつと話題の新店も続々登場。多様化を見せる中、2024年4月1日にオープンしたのが、割烹スタイルで、炭で焼く牛肉のおいしさを楽しませてくれる【おか﨑】だ。場所は銀座。といっても、以前は中目黒で半年ほど常連客相手にポップアップ的に営業していたそうで、今回、満を持しての移転、リニューアルオープンというわけだ。
「とにかくお腹いっぱいになって帰ってもらいたい。」
カウンターで肉をカットしながら、こう語るのは料理長の岡﨑睦さん。高知は土佐清水の出身だそうで、もともと実家が旅館を営んでいたことから、自然に料理人になる道を選んでいたのだとか。16歳で料理の世界に飛び込み、以来、40有余年、和食店を振り出しに鮨割烹や外食産業などさまざまなジャンルを経験してきたベテランだ。
料理人歴45年の大ベテラン、岡﨑睦料理長。15の歳からこの道一筋。鮨に天ぷら、そして肉とさまざまなジャンルに精通してきた
2010年、ソルト・グループに入ったことから肉の世界へと大きくシフト。ソルト・グループが、ヨーロッパに和牛を売り出すべくロンドンで始めた和牛レストランの料理長に抜擢されたのだ。時に岡﨑さん42歳。
「ロンドンの店は、当時でコース6万円はする高額店でしたが、いらしたお客様方は、みなさんおいしいおいしいって言って笑顔でお帰りになる。あぁ、肉ってこんなにも人を喜ばせられるんだ!と身をもって感じたんです」とは岡﨑さん。これを機に、さらに肉の世界へとのめり込んでいくことに。
数寄屋橋交差点の程近く。モダンインド料理店など多くの人気店が入る飲食ビルの6階にこの4月にオープン
そして2014年には、西麻布にオープンした【イノセントカーベリー】に就任。その後、丸の内店や同じ丸の内のすき焼き店【十二天】などを手掛けた後、麻布十番【岡田前】に転向。片腕となって尽力してきた。
こぢんまりとしていながらも落ち着いた雰囲気の店内には、臨場感たっぷりのカウンター8席のほか、個室の用意もある
「以前は独立も考えてはいましたが、もう、ここまで来ると、歳も歳だし、それ(独立)はないかな、と思っていた」岡﨑さんだったが、話は思わぬところから舞いこんできた。
2023年7月、「中目黒で店をやってみない?」と誘われ、週に3回ほどポップアップ的に始めたところ大好評。見る間に数ヶ月先まで予約が取れない人気店となっていった。ところが、好事魔多し。諸事情により移転を余儀なくされるが、運良く見つけた物件がこの場所。まさに銀座のど真ん中。数寄屋橋交差点にほど近いビルの6階にこの4月1日、実店舗として再スタートした。
コースに登場する串の数々。手前はハラミ(左)とジビーフ。奥は左からハツ、カイノミ、ザブトンで牛蒡を巻いた八幡巻き
店内はこぢんまりとしているものの、カウンター8席のほか、奥には個室も用意。仲間うちの集まりなどに重宝しそうだ。が、やはり醍醐味はカウンター。
カウンター前のショーケースに整然と並ぶ串うちされた肉の各部位が期待を募らせる。まず、目の前に置かれたのは、『ハツの串焼き』。こちらはシンプルに辛子で提供。サクッとした食感が心地よい。続く一品は豚。脂の融点が低く甘みのある佐助豚をしゃぶしゃぶで供した後は、『テートヒレの握り』、『ヒレタク巻き』と鮨が立て続けに登場。ちなみにテートヒレとはヒレのお尻の部分のこと。赤身感が強くマグロの赤身にも似たこの部位を、岡﨑さんは漬けにして握るなどさりげない一手間が光る。
カイノミは、ヒレに近いバラの一部。赤身と脂身のバランスが良く、旨みもある。大根おろしを添えてさっぱりと食べさせてくれる
『テールスープベースの茶碗蒸し』で舌を休ませた後、『黒タンの藁焼き』、『ハラミ』、『ジビーフの串焼き』と肉の3連発。ジビーフとは、完全放牧野生牛のこと。人間の手をかけずに育った牛の肉は、いわゆる和牛とは真逆の肉質。
「異なる2タイプの肉を食べ比べていただくのも楽しいかなと思って」とは岡﨑さん。稀少なジビーフは常にあるとは限らないが、ない時には十勝若牛などグラスフェッド系の牛を用意しているそうだ。それぞれの肉の持ち味を味わえるのも、肉ラバーにはうれしいところだろう。『肩三角と春野菜の炊き合わせ』で再び小休止。取材日は、タラの芽、セリ、うるいと山菜だったが、これからの季節、冬瓜や茄子、とうもろこしなど夏野菜に変わっていく予定だとか。肩三角は、牛肉の腕の一部で比較的脂が少なく旨みの強い部位。淡い餡仕立てにして、軽やかな食感を演出している。
『肩三角と春野菜の炊き合わせ』。山菜は、うるい、タラの芽、芹など。野菜は旬のものをあわせるため、初夏には、冬瓜や茄子などに
続いて、再び串焼きにリターン。カイノミ、肩ロース肉の八幡巻きの登場となる。カイノミは、おろしポン酢と薬味でさっぱりと仕上げ、肩ロースは煮含めたごぼうを巻いて……等々。最後まで食べ疲れしないようにとのさりげない一工夫もさすがだろう。
串焼きが一段落ついたところで、ラストはシャトーブリアンとステーキ。土鍋で炊き立ての白飯と共に定食スタイルで出してくれるのも気が利いている。今日の肉は近江牛。だが、岡﨑さんは、ブランド牛や格付けに殊更執着はない。
最後に登場するのはシャトーブリアンの炭火焼き。炊き立ての白飯と共に定食のようなスタイルで提供するのが“おか﨑”流だ
「決めているのは、雌牛を扱うということぐらいでA5でなくとも全然OK。むしろA4、A3ぐらいの方がサシの按配もほどほどで、今となっては食べ易い」とは岡﨑さん。塊のまま焼き上げるシャトーブリアンは、1人前100g。ミディアムレアに焼き上がったそれは、心なしかややワイルド。低温調理で仕上げた柔らかく繊細なヒレというよりも、カシッと噛み締める肉肉しさがある。それでいて口中でほぐれる肉の繊維はきめ細やかだ。
ご飯は、岡﨑さんが吟味した米“いのちの壱”。コシヒカリの突然変異種で、粒が大きく甘みがあり、粘りと弾力に富む
一方、米にもこだわりが満載。数々の米を扱ってきた岡﨑さんが、この店で選んだのは、滋賀の「いのちの壱」。コシヒカリの突然変異種として生まれたお米で、粒が大きく甘みがあり、馥郁(ふくいく)とした香りが特徴。これを30分ほど浸水させた後、土鍋で炊き上げている。もちもちとした炊きあがり、噛めば噛むほど旨みが広がる豊かな味わいは、肉の合いの手にはピッタリだろう。九州の甘口の醤油やわさびと共に味わいたい。
最後にスパイシーなアイスクリームが出てコースはフィニッシュ。岡﨑さんによれば、「コース全体でおよそ400gほどの肉量になります」とのこと。これで19,800円(税込)は、“銀座という場所”を考えれば、お値打ちでは?
シャンパーニュをはじめ、ワインはブルゴーニュを中心に品揃えも豊富。グラスシャンパーニュは1,870円、グラスワインは800~1,500円
この記事を作った人
撮影/上田 佳代子 取材・文/森脇 慶子(フリーライター)
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