更新日:2020.07.02連載
遂にJリーグ再開! 浦和レッズ・槙野智章の心に残る、競技人生を支えた味|トップアスリートの一皿
日本を代表するDF、槙野智章選手。広島でプロキャリアをスタートし、ドイツ・ケルンで新たなチャレンジに挑み、そして現在は在籍9年目となる浦和で身体を張り続ける男のサッカー人生とは。そして、その節目となった思い出深い料理とは。
浦和レッズ所属の槙野選手は、広島県の広島市出身。ゆえに、お好み焼きや牡蠣料理、あなごめし、尾道ラーメンといったご当地グルメが次々と飛び出すかと思いきや、槙野選手から聞かれたのは意外な言葉だった。
「昔から、おいしいご飯は大好きだったんですけど、食に関して興味を持つようになったのは、実は浦和レッズに加入してからなんですよ。いろんな方々と食事に行く機会が増えて、連れて行ってもらったり、自分でリサーチしたり。そうやって少しずつお気に入りのお店を増やしていきました」
交友関係の広い槙野選手だから、何か月も予約が取れないような高級店にスポーツ選手や芸能人と足を運ぶことも少なくないが、今回どうしても紹介したいのは、リーズナブルな鮨屋だという。
外食への並々ならぬこだわりを語る槙野選手
「正直、高いお金を払えば、おいしいものは食べられる。でも、若い頃を思い出すと、回転寿司をバクバク食べて、それで幸せだった。じゃあ、今、回転していないお鮨屋さんで、手頃な値段だけど、めちゃくちゃおいしいお店ってないんだろうかと。そうしたら、あったんです!」
京王井の頭線の新代田駅から笹塚方面に歩いて3分、環状七号線沿いにひっそりと佇むお店
それは、東京の新代田にある、知る人ぞ知る名店だ。
「地元の方々に長く愛されてきた【玄鮨】というお店で、食べるというより、飲みながら、つまむようなお鮨屋さん。めちゃめちゃおいしいんですけど、値段も手頃で。たらふく食べたのに、『え、それでいいんですか?』という料金を提示されて。『もっと払いますよ』と言っても、『いえいえ。ぜひ、また来てください』って」
店主の亀谷玄雅さんは独学で修行した鮨職人。季節に合わせた旬のネタ選びとその捌き方、シャリに至るまでこだわりは深い
食べることに興味をもってからは鮨屋に足を運ぶことが多いという。
「日本人ならやっぱりお鮨だろうって、鮨屋巡りはよくしていますね。なかでも赤身が大好物です。たまりません(笑)」
赤身漬け、中トロ、大トロ、トロ炙りが堪能できる『マグロづくし四貫』1,650円(税込)
実は、このお店には浦和レッズのチームメイトである柏木陽介選手と、お互いの妻を連れて訪れたという。
「陽介とは去年から月1回、おめかしして家族ぐるみで食事に出かける『おしゃれ会』というのを開催しているんです。今月は俺の番、来月は陽介の番っていう感じで、それぞれがリサーチして、プレゼンして、よし、そこに行こうって」
店内はカウンター8席、4人がけのテーブルが1卓、奥に座敷がある
ふたりは高校時代から切磋琢磨する盟友である。サンフレッチェ広島のジュニアユースに所属していた槙野選手はユースへと昇格する。一方、兵庫県で生まれ育った柏木選手が高校進学とともに広島ユースに加入することになり、ふたりは出会った。
その後、ふたりは2006年に広島のトップチームへ昇格。08年12月に柏木選手が浦和レッズへ移籍すると、11年1月には槙野選手がドイツの名門、1FCケルンに移籍する。そして、12年1月に槙野選手が浦和レッズに加入したことで、ふたりは再びチームメイトになった。
「月日を重ねれば付き合う人も変わってくるものだけど、陽介とはなんだかんだで一緒にいることが多いですね。大事なところでの付き合いは変わらない」
プロ入り前から同じ道を歩んできた好対照なふたり。苦楽を共にしてきたからこそ根っこの部分は繋がっている ©URAWA REDS
ディフェンダーの槙野選手と、ゲームメーカーの柏木選手。超ポジティブな槙野選手と、どちらかと言えばネガティブな柏木選手。ポジションも性格も正反対なふたりだが、だからこそ、ウマが合うのではないか、と槙野選手は言う。
「最初会ったとき、めちゃめちゃ上手いなって思ったんですけど、陽介は『家に帰りたい』『辞めたい』ってウジウジしていて。だから、僕は怒ったんです。『俺は日本一を目指すやつ、プロになりたいやつと一緒にサッカーがしたい。泣き言ばかり言うなら、荷物まとめて帰れ』って。そうしたら、何年も経ったあと、陽介が雑誌のインタビューで、『あれで目が覚めた』と話していて。ああ、俺の言葉がターニングポイントになったのかなと(笑)」
時折冗談を交えながらも食についてのエピソードは尽きることがない
ドイツに渡った11年、思うように出場機会を得られなかった時期に、最も連絡を取り合っていたのも、柏木選手だった。
「けっこう相談していましたね。『全然出てないな』って言われたり、陽介も浦和で苦しんでいたから、『お前こそ、出てないな』って言い返したりして(笑)。浦和に加入することが決まったときも、真っ先に報告しました。『また、お前と一緒にやるのかよ』って言われましたけど(笑)」
Jリーグ随一の“熱い”サポーターでお馴染みの浦和レッズ。米Fox Sportsが選ぶ「世界の熱狂的なサポーター5選」にもリバプールやバルセロナといった錚々たる顔触れと共に選出されている ©URAWA REDS
こうして槙野選手は12年1月にJリーグに復帰するのだが、1年を過ごしたドイツ時代にも、忘れられないお店があるという。
「それもお鮨なんですけど、ケルンにあった【桃太郎】というお店。ドイツ時代、僕が試合に出られず悩んでいたときに、大将が『これを食って元気出せ』と振る舞ってくれて。あのとき食べた赤身の味は今も忘れられないですね」
雄大なライン川の対岸に高くそびえるケルン大聖堂
当時、香川真司選手、内田篤人選手、乾貴士選手ら10人を超える日本人選手がドイツでプレーしており、隣国オランダのクラブにも吉田麻也選手、カレン・ロバート選手、安田理大選手が在籍していた。彼らがケルンまで遊びに来たとき、集合するのもこのお店だった。
ヨーロッパで活躍する日本人サッカー選手たちがこぞって愛した日本食レストラン(本人提供写真)
だが、心の拠り所になっていた【桃太郎】との別れのときが、ついにやってくる。
「ケルンで1年やってきたけど、なかなか試合に出られなくて、移籍しなければならない。しかも、移籍先はドイツじゃなくて、日本になるかもしれない……。そんなことを店長に伝えたら、やっぱり、いつもどおり『これでも食え』って。それを食べていたら、なんか悔しさ、寂しさがこみ上げてきて、泣いてしまって……。他の客に泣いているのを見られないように、顔を隠しながら食べました」
ドイツ時代に心の支えとなった店主の内藤良次さんと(本人提供写真)
そんな槙野選手も若い頃と比べ、外食の機会は減った。18年1月に女優の高梨臨さんと結婚したからだ。今は臨さんの手料理が何よりの楽しみだという。
「どれも全部おいしいんですよねえ。その中でもお気に入りの一品ですか? パイ包みのビーフシチューですかね。あれは本当に絶品でしたね」
今シーズン、浦和レッズが掲げる目標はアジアチャンピオンズリーグ出場と得失点差プラス2ケタ以上。実現のためには槙野選手の力は欠かすことができない ©URAWA REDS
18年6月には日本代表としてロシア・ワールドカップに出場。19年にはAFC(アジアサッカー連盟)年間最優秀選手の候補にもノミネートされ、日本を代表するDFとなった。新システム・新戦術を取り入れた今季の浦和レッズでは、激しいレギュラー争いを繰り広げているが、簡単にポジションを譲るつもりはない。今季も魂のこもった熱いプレーでスタジアムを沸かせてくれるに違いない。
7/23(木)には、後半・槙野選手がオススメする行きつけ店を公開予定。
プロフィール
槙野智章(まきのともあき)
1987年5月11日生まれ、広島県広島市西区出身。
Jリーグで活躍する元日本代表ディフェンダー。サンフレッチェ広島ジュニアユース,サンフレッチェ広島ユースを経て、2006年サンフレッチェ広島に入団。サンフレッチェ広島のトップチームで5年間プレー、11年ドイツの1FCケルンへ移籍する。12年に浦和レッズへ移籍し、今年で9シーズン目を迎える。
撮影/原 務
~槙野智章の心に残る、競技人生を支えた味~【Momotaro 桃太郎】
電話:0221 2571432
住所:Benesisstr.56,50672,Köln
営業時間:ランチ 12:30~15:00、ディナー 18:30~23:00
定休日:日・祝日、※月曜はディナーのみ休み
取材・文/飯尾篤史
大学卒業後、編集プロダクションを経て、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属される。2012年フリーランスに転身。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』、『岡崎慎司 未到 奇跡の一年』等がある。
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