美術館級の器と佐賀県の豊かな食が競演「USEUM SAGA」のディナーが凄かった
海と山の幸に恵まれ、400年以上の歴史を誇る有田焼など豊かな食文化が育まれている佐賀県。美術館(MUSEUM)に飾るような器を用い(USE)、佐賀が誇る食材を、二人のシェフが華麗に料理し、その特別なコース楽しむポップアップレストランが7月【arita huis(アリタハウス)】で開催されました。今回腕を振るったのは、【abysse(アビス)】目黒浩太郎シェフと【arita huis】増永琉聖シェフ。特別なディナーのひとときをレポートします。
二人のシェフの響宴。佐賀の恵み溢れる、二日だけのガストロノミーイベント
2021年7月3日。佐賀県有田町で、フーディたちが集うガストロノミーイベントが行われた。佐賀でガストロノミーイベント? と意外に思う人もいるかもしれない。
会場となった【arita huis】
実は佐賀はその恵まれた地理と気候によって、さまざまな良質な農作物や魚に恵まれている。海は豊かな有明海と玄界灘に面し、有名な有明海苔や唐津の雲丹はもちろん、クエや鯖など魚の質もいい。
山畑に目を向けてみると、日本最古の田んぼが遺跡として残るなど、農業を営んできた歴史もとても古い。さらに江戸時代に本格化した有明海の干拓で広がった平野は、ミネラルが豊富な上に、脊振山系の澄んだ水が流れ込み、「米づくり日本一」にも輝いた実績を持つ日本屈指の米どころだ。そして、400年以上の歴史を誇る磁器「有田焼」の生産地でもある。
こうした豊かな食材と歴史ある器、自然と独自の文化を結集し、これから先の未来へ繋げるイベントとして行われたのが今回の「USEUM SAGA」なのだ。
イベント中の【arita huis】オープンキッチンの様子
「USEUM SAGA」とは、美術館(MUSEUM)に飾るような器を使い(USE)、才能溢れる料理人が佐賀県食材を使った料理を楽しむことがテーマ。そんなイベント会場となったのは、【arita huis(アリタハウス)】。有田焼専門店がずらりと並ぶ有田の人気スポット「アリタセラ」内にあるレストランだ。
そして、今回の主役となるシェフは二人。一人は【arita huis】の増永琉聖さん。あくなき探求心で新しいフランス料理を日々考え、22歳でシェフに抜擢された実力の持ち主だ。そしてもう一人のシェフが、東京の【abysse(アビス)】の目黒浩太郎さん。実は、目黒さんのイベント参加は、増永さんからのたっての希望で実現したもの。増永さんは魚の料理を得意とするが、そんな増永さんが注目し、憧れていたのが、すでに魚料理に定評のある目黒さんだった。その思いを受けて、目黒さんは考えた末、イベントへの参加を決意したという。
このイベントは、県内の有望な料理人とそのチームが県外の実力派シェフとともに料理をする機会を作ることで、若手のスキルアップを目的とした取組みという側面もあると聞いた。
今回は、目黒さんが佐賀に打ち合わせに来た折に、二人で話し合いながらさまざまな佐賀県の食材に触れ、使ってみたいものをセレクトし、それぞれが一皿のメニューを考える。その料理をコースに組み込み、ゲストに楽しんでもらう仕立てとなった。
コース2品目「竹崎蟹/唐津レモン」(増永さん作) 器・井上萬二
「ローカルガストロノミー」という言葉が聞かれるようになって久しいけれど、最近私自身、興味があるのは断然地方の食やレストランだ。佐賀の豊かな食材を、二人のシェフがどんなふうに料理をするのか。期待に胸を膨らませながらテーブルについた。
目の前のオープンキッチンからは、シェフたちの熱気がガンガン伝わってくる。最初に運ばれてきたのは目黒さんがつくった「雲丹/煎茶」という料理だ。副島園の煎茶を練り込んだパスタに、ちょうど旬の唐津の赤ウニがのせられている。煎茶の苦みと香りに、ウニのなめらかな甘みがうまく合わせられてさっぱりとしたおいしさだ。この鮮度の良いウニの甘みや鮮やかな茶の香りは、現地で食べる醍醐味だろう。
次の料理は、増永さんがつくった「竹崎蟹/唐津レモン」。器はなんと人間国宝の井上萬二ではないか。そこに、カットした木片を器にし、モダンな“蟹コロッケ”とでも呼びたくなる料理が美しく盛られている。斬新な器の使い方に感心しながら、料理を食べると、カブのクリームに蟹が甘やかに交じり合い、ふわりとエキゾチックで爽やかな香りが口に広がる。聞けば、レモンリーフ、そしてレモンも使っているという。
端正な器と、フレッシュな感性が融合した世界は、なかなか刺激的だ。
3品目「コハダ/発酵トマト/ほうれん草」(目黒さん作) 器・「2016 /」(Pauline Deltour)
目黒さんの「コハダ/発酵トマト/ほうれん草」も、面白い。
主役はコハダ。実はコハダは東京市場で流通している40%が佐賀県産のもの。そのため獲れたコハダはほとんどが豊洲にいってしまい、地元ではあまり食べられないのだという。そんなコハダを赤酢でマリネし、アスパラガスを添え(実はアスパラガスの生産量も国内2位を誇る)発酵トマトとほうれん草のソースを大胆に敷いた皿で登場した。こうした食材のバックストーリーを知れば、目の前の料理がもっとおいしく感じ、そして色鮮やかに記憶に残る。
ちなみに、大胆なソースの模様が面白いと言ったら、目黒さん「窯元でろくろを借りて、厨房でろくろにお皿を乗せてソースを敷きました」と笑顔で教えてくれた。
5品目「剣先イカ/自然薯/フロマージュブラン」(目黒さん作) 器・「1616 / arita japan」 酒器・「やま平窯」
視覚的な美しさを大切にしていることは、目黒さんの他の料理からもうかがえる。5皿目の「剣先イカ/自然薯/フロマージュブラン」は世界が魅了された有田焼の白磁の“白”をイメージし、“白い料理をつくりたかった”という思いが現れた美しい一皿。
見た目だけでなく、味も抜群だ。昆布のオイルでマリネしたイカに、白キクラゲ、白いとうもろこしなどをあわせてフロマージュブランのソースを添えているのだが。旨みをのせたイカにクリーミーな酸味が驚くほど良く合う。そして、時折顔を見せるキクラゲやとうもろこしの食感が楽しい。
9品目「金桜豚/味噌/コンソメ」(増永さん作)器 ・15代酒井田柿右衛門
一つのコースで二人のシェフの料理を味わっていると、それぞれの個性がお皿から伝わってくるのも面白い。目黒さんの“発酵や旨みを重ねて深くなる料理”の印象とはまた違い、増永さんの料理は、シンプルだけれど、香りの余韻が長く続く。そんな増永さんの料理で印象的だったのは「金桜豚/味噌/コンソメ」だ。
豚肉をゴロッとかたまりでローストし、下には蓮根餅を忍ばせて。鶏のミンチでとったスープにカツオとサバでとっただしをあわせたコンソメをかけていただくのだが、これが、実においしい。コンソメをかけたばかりのときは、すっきりとしているスープが、しばらくすると豚肉の脂が溶けて混じり合い、どんどん味が甘く濃厚に変化していく。そしてふっと、ハーブの香りが鼻をくすぐる。そのスープをソースがわりに豚肉を食べると、やはり印象がどんどん変わっていく。さらに、そのスープを吸った蓮根餅が抜群なのだ。
白磁の第15代酒井田柿右衛門の茶椀が意外にもしっくり馴染んでると思えるのは、この料理が、ボリューム感がありながらも、澄んだ繊細な部分を持つからかもしれない。
11品目「夏クエ/実山椒/花山椒」(目黒さん作) 器・14代中里太郎右衛門
そして、コースのクライマックス、目黒さんの「夏クエ/実山椒/花山椒」も印象に残る一皿だった。
14代中里太郎右衛門の器に盛り付けられた美しいクエは、大胆にシンプルに焼きあげられている。添えられているのは、ツルムラサキと実山椒のソースと花山椒のピクルスだ。夏のクエは脂が少なくさっぱりとしている。実山椒や花山椒が生み出す野生的な野山の香りと刺激が、しっとりと仕上げた夏のクエの蛋白な味を爽やかに引き立てる。
13皿目「チョコレート/ほうじ茶」(増永さん作) 器・「2016 /」(Kirstie van Noort)
13皿を締めくくるデザートは、目黒さんの「南高梅」のサバランに、増永さんの「チョコレート/ほうじ茶」。
「チョコレート/ほうじ茶」は、チョコレートのテリーヌにクローブなどのスパイス、副島園のほうじ茶で香りをつけたもの。上にはかわいらしいそばの花があしらわれていた。
香ばしい炒ったほうじ茶の香りがするチョコレートを食べながら、最初のスターターが副島園の煎茶の料理で始まったを思い出す。同じ茶園のお茶の料理で始まり、そしてお茶のデザートで終わる、というのが二人のシェフのこのコースにかけたお互いのメッセージの交換のように感じ、13皿の料理の数々が一気に走馬灯のように蘇った。
振り返ってみると、魚や肉はもちろん、野草、きのこから、シナモンなどのスパイスにフルーツまで! あのおいしかった魚も、お肉も、野菜も全部県産のだったということに素直に驚く。そして、しみじみと、佐賀は様々な食材に溢れている土地なのだと実感。コースを通し、豊かな佐賀の海山を駆け巡る旅をしたような気持ちになった。
左上が目黒浩太郎シェフ、その隣が増永琉聖シェフ。ほか【abysse】から3人のスタッフが佐賀入りし、【arita huis】のスタッフとともに、イベントをつくりあげた。
改めて思うが、日本の地方は、本当に豊かだ。それぞれの歴史や文化があり、それぞれの自然が育んできた恵が溢れている。その豊かさに、外からの人達の視点も交えて、今までにない角度で光を当て、新しい魅力を表現していることに触れられるのも、こうしたイベントの魅力だろう。
その土地に眠るさまざまなストーリーは、知れば知るほど面白い。そしてその魅力を知ればまた、この地を身近に感じ、再訪したくなってしまう。
この「USEUM SAGA」は場所を変えて年内にまた行われるという。知られざる佐賀の魅力にぜひ触れに出掛けて欲しい。
「USEUM SAGA」問い合わせ
サガマリアージュ推進協議会までメールでお問い合わせを
ryuutsuu-boueki@pref.saga.lg.jp
撮影/神林 環
取材・文/山路美佐
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