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映画『世界が愛した料理人』に出演、バスクの三ツ星シェフ【アスルメンディ】エネコ・アチャ氏が考えるレストランのカタチ

近年、シェフたちを追ったドキュメンタリー映画が人気だ。現在公開中の『世界が愛した料理人』も、料理を通じて、人々にその土地の文化を、非日常感をもって誘うシェフたちが何を考え、どう表現し、どうゲストたちを魅了するのかに迫る作品。出演しているバスクの三ツ星シェフ、【アスルメンディ】のエネコ・アチャ氏に彼が取り組んでいるサスティナブルな活動、今感じることをインタビューした。

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エネコ・アチャ氏プロフィール

1977年バスク地方生まれ。2000年25歳の時、第3回スペイン若手料理人選手権優勝。【マルティン・ベラサテギ】、【ムガリッツ】、【アサドール・エチェバリ】などで修業し、2005年自身の店【アスルメンディ】をオープン。2010年、スペイン最年少でミシュラン二ツ星、2012年ミシュラン三ツ星を獲得。2018年『世界のベストレストラン』では43位、そしてサスティナブル賞を受賞。

    バスク地方・ララベツの丘の上に立つ【アスルメンディ】この土地の豊かさを感じる環境に囲まれながらゲストは食事ができる。

Interview

―料理人になったきっかけはなんですか?

幼いころから食べることが好きでした。それも特別なものではなく、毎日母や祖母がつくってくれる家庭料理が好きだったんです。ですから、料理人になるのは自然な流れでした。

 母や祖母がつくってくれた家庭料理は、味わい深く、力強い、パワーを感じるものでした。それが私の遺伝子に染み込んでいるのです。自分の目指す料理はそこを源泉としている。料理は魂から生まれるもの。自分の記憶をたどって形になる料理が私の料理です。そして、”食べる幸せ”をゲストと共有したい。その一心で料理をするのです。

 ですから、私は”シェフ”というより”コック”でありたい。職人であることのほうが自分にはしっくりときます。

    緑野菜のジュレの上に、夏が旬の青魚、青りんごのシャーベット、トマトのエマルジョンをあしらった美しい一皿。

―料理を理想に導くもの、として土地とのつながりが重要だと考えているとお聞きしました。

ガストロノミーとサスティナビリティというのは一見反したもののように思えるかもしれません。でも、土地とのつながりなしに料理はできないのです。料理人の育った環境や食文化で料理に個性が生まれます。つまりそれは、その土地があるからこそ。土地に与えられたものに感謝し、リスペクトし、使い、料理をしています。

 また、私たちの次の世代に何を残せるのか、という思いはいつもあります。自分の店をつくりたいと思ったのは、新しいサスティナブルを考えた建物、循環型システムを取り入れたいと思ったからです。

    レストランロビーにそびえたつ、煙突のようなものは地熱発電のシステムの一部

―具体的にはどんな循環システムをつくられたのですか?

 まず、自分たちでエネルギーを賄えないかと考え、地熱発電のシステムをつくりました。18の穴をあけて深さ150メートルまで掘る。そこから地熱を得て、レストラン館内で利用しています。ロビーにある煙突のようなもの、これは地熱発電のシステムの一部です。暖かい空気、あるいは冷たい空気を通す開閉式のよろい状の板を建物に採用し、屋内の温度を自動的に調節できるインテリジェントビルにしました。この建物は、黒い窓枠部分がソーラーパネルとなっており、そこからのエネルギーも得ることができます。

    丘の斜面に立つ建物の二階部分は種子バンクに。窓や屋根の黒い部分が特殊なソーラーパネルになっている。

―それは、すべてご自身で考えられたのですか?

そうですね。すべて自分で〝こうしたい"と考えました。ほかにも、バスクは雨が多くて3日に1回は雨が降ります。ですので、その雨水を貯めてトイレなどに使用するなど、水のリサイクルをしています。去年から、ララベツの市役所とコラボレーションして、生ごみをコンポストで肥料にし、市の肥料センターに納めて市民や近隣の農園にも使ってもらっています。

―【アスルメンディ】には、二階に『種バンク』がありますね。

その土地にある種というものの存続危機はバスクでも問題です。この種バンクでは、バスク土着の品種400種類を保存しています。すべて地元の種です。NEIKERという機関に種子の選別を依頼し、シードバンクの技術を提供してもらっています。

    種子バンク内にずらりと並ぶ、在来種の種の標本。温度管理もきちんとされている。

―【アスルメンディ】は今までにないユニークなレストランですね。システムだけでなく、最初にゲストが体験する”ピクニック”なども象徴的だと思います。

 ゲストがインテリア・ガーデンで体験していただく”ピクニック”はララベツの自然を感じながらリラックスしてもらいたいと思って始めました。ガラス張りの室内からは丘陵が見え、さらに室内には木々があり、その木々に様々なスナックを乗せて楽しんでもらう。キッチンで食べていただく『トリュフ卵』は地元の生産者への尊敬を表したものです。フレッシュで質のいい卵黄でないと、この料理はできません。その品質の良さを感じていただくための料理なのです。

    ピクニックツアーのラストはキッチンでいただく【アスルメンディ】名物トリュフ卵。生の卵黄に注射器でトリュフソースを注入したもの。

―今回の映画出演はどうでしたか?

 とても面白い経験でした。この映画はスペインにいる私、そして日本の『すきやばし次郎』の小野二郎さんという非常に違う二つの世界を交互に見せながら話が進行していきます。一見まったく違う二つの道の料理人が、料理に対して追求していくと、おのずと同じような道につながるんだと思いました。ほかの料理人のフィロソフィーを知ることができる機会はないので、非常に刺激を受けました。

 料理人とは、遠くの何かを目指すのではなく、日々の仕事をしながらそのひとつひとつを完璧にしていく連続です。ある山を登ることを目指していたとしても、頂上にたどりついた絶景が面白いとは限らない。その登っていく道のほうが美しく、尊いものだったりするのだと思います。

    【アスルメンディ】の厨房にて盛り付けをするエネコ氏。今回の映画は、監督とプロデューサーから直々に依頼があり、出演を決めたという。

映画『世界が愛した料理人』

  • 世界最高峰の料理人たちが、なにを考え、どんなメッセージを込めて料理をつくっているのか。バスクの三ツ星レストラン【アスルメンディ】のシェフ、エネコ・アチャ氏が、日本に飛び、【すきやばし次郎】の小野二郎氏、【壬生】の石田廣義・登美子夫妻を訪ね、なにを感じたのか。今年8月に亡くなった故・ジョエル・ロブション氏や【龍吟】山本征治氏らも登場し彼らの料理を通したメッセージを語る。今のガストロノミーの世界を垣間見られる刺激的な映画だ。9月22日~ 恵比寿ガーデンシネマ内にて上映中。

スペイン・バスクのレストラン情報

この記事を作った人

撮影/小野祐次 取材・文/山路美佐(ヒトサラ副編集長)

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