外食のプロが語る! 2021年グルメトレンド予測(後編)
前編に続き、飲食プロデュースを手がけるソルト・コンソーシアム(株)代表・井上盛夫さん、ぴあ(株)『東京最高のレストラン』編集長・大木淳夫さん、グルメライター・小寺慶子さんの3名に集まってもらい、いま注目しているお店や料理ジャンル、飲食市場の潮流について語り合っていただきます。
グルメトレンド
“7つ”のキーワード
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①通販など「オンラインビジネス」の定着
②「横丁」の大ヒット
③まちに根付いた「町中華」が流行
④「ネパール料理」が深化
⑤「カウンター」がデフォルトに
⑥人を集める「地方の店」
⑦「私鉄沿線の店」がさらに充実
(左)ソルト・コンソーシアム㈱ 代表・井上盛夫さん
(中央)フードライター 小寺慶子さん
(右)ぴあ㈱ 「東京最高のレストラン」編集長・大木淳夫さん
⑤カウンター席がデフォルトに
恵比寿にできた【創和堂】。広い活気のあるダイニングの中央には大きなカウンターを配置
コロナ禍で個室需要が増えるかと思いきや、カウンターのお店が増えましたよね。【酒井商会】の2店舗目の【創和堂】や【オルランド】の姉妹店【エンリコ】、山田宏巳シェフの【イン・フィニート】、【TAKUBO】にいた笠井篤シェフがワンオペでやっている都立大学【笠井】などもカウンターのお店ですし。
今は、カウンターでナチュラルワイン、というのはデフォルトになっていて、女性一人客も多い。10年前にはあまり見られなかった風景ですよね。お店の方とのコミュニケーションが取りやすかったり、料理の工程が見えるのは楽しいですよね。
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日本のイタリア料理界を牽引する山田シェフの【イン・フィニート】もカウンターメイン
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人気店【傳】と【フロリレージュ】が融合した串揚げ店【デンクシフロリ】はカウンターのみ
今となっては逆に、対面で食事するの、ちょっと緊張するかも(笑)
そうかもね(笑)。EAT PLAY WARKSの「THE RESTAURANT」もカウンターがメインですよね。
そうですね。今まで大箱のレストランも手がけて来ましたが、関西人の僕はお好み焼き文化で育ってきたので、カウンター越しに店主と会話しながら食べることが好きなんです。店主の目の届く範囲で料理もサービスもできるし、できたてが目の前にポンと出てくる。そのほうが圧倒的に美味しく感じます。
ワイオペだとカウンターは必然ですし、人材不足にも強い。客のニーズにも応えているので、時代的に今後も増えていきそうですね。
⑥コロナ禍だからこそ気がついた、地方の魅力
国内で見つけた素晴らしいお店について語り合う鼎談者たち
――いま、地方も活気づいてきていますよね。
そうですね。今年は海外に行けなかったので、国内の今まで行ったことがなかった場所に足を延ばすことができて、日本のすばらしさを再発見できました。
僕は今年、海外はもちろん地方にも行けなかったけど、どこがよかった?
兵庫一択ですね。焼肉に関して、兵庫は天才! 中華も【口岩口岩好(アムアムホウ)】という四川と飲茶料理の店が美味しかった! 餃子もいいお店いっぱいあるみたいですし。肉も中華もすごいんです! 通っていろいろ食べにいきたい、というか兵庫に暮らしてもいいと思えるほどですよ(笑)
僕は兵庫の西宮出身だから嬉しいな。震災から20年以上経っても、実はまだ元の活気は取り戻せていなくて。飲食店を軸に盛り上がってほしいな。関西は京都、大阪だけでなく美味しいものがいっぱいあるから。焼肉はどのお店に行ったの?
【満月】です。
旨いよね、モツも新鮮で。
あ、兵庫一択と言っておきながそれから、岡山の蒜山(ひるぜん)もよかったです。中目黒で評判だったお燗酒と鰻の店【翏(りょう)】が移転して、12月末から1日2組限定でオープンしたんです。設えも素敵で、駅からも空港からも遠いのですが、蒜山に人を呼べるお店になりそうな予感がしています。水がきれいなので、お米はもちろん、いろいろ美味しいものが採れるようで、移住してチーズや豆腐を作っている若い人たちのコミュニティができ始めているんです。同じ思想を持った人たちで今後も盛り上がっていきそうですよ。
日本の素晴らしさを再発見したという小寺さん。「これからは、四季折々の自然を生かした、画一的ではないものをみな追い求めていくのではないか」
それは楽しみですね。僕は今、能登にハマっています。「能登の里山里海」は世界遺産にも認定されているのですが、魚も野菜もうまい。自然豊かで景色も素晴らしいし、実は東京から飛行機で30分で行けるんですよ。
そんなに近いんですね。
そうなんです。輪島塗のような伝統工芸など、良いものを残しながら能登半島をまるごとデザインできたらいいなと思っています。
⑦都心はさらに質と洗練を極め、私鉄沿線は“ほっこり系”が充実?!
京都・烏丸御池の人気店【aca(アカ)】が東京・三越前に移転。名物の「パエリア」も健在です
地方に目が向いたり、移住して良いコミュニティが広がる一方で、【aca(アカ)】をはじめ、「地方から東京へ」というお店も相変わらず増えていますよね。
大阪の超人気店、【中国菜エスサワダ】も西麻布に。東京はどんどん質が高く、やっている人の思想がきちんと感じられるものが残っていくと思います。
【OLD NEPAL TOKYO】の本田さんは、将来的に世界に進出する、その第一歩として大阪から東京へ出てきたそうです。もうネパールでも食べられないような古典的な料理が逆に新鮮で、そういう意味でも東京でヒットしているのではと思います。
東京はコスモポリタンですから、いろんな国や人の考えによる、さまざまな料理や店がありますよね。外国からも学びながら取り入れて、東京の中で更に洗練を極めていくんじゃないでしょうか。
そうですね。東京はどんどん質が高くなり、やっている人の思想がきちんと感じられるものが残っていくのではないでしょうか。
今後しばらくは東京の家賃も下がっていくだろうし、面白い物件も出てくると思います。個性的な物件を活かせるのは、個性的なシェフやオーナーだと思うので、力のある人がどんどん出てくるんじゃないかな。
コロナ禍でリモートワークも増えて、私鉄沿線もますます面白くなっていきそうですよね。【OLD NEPAL TOKYO】のある豪徳寺はかなり盛り上がっていますよ。参宮橋もアットホームなお店が増えつつありますね。ジビエ料理で有名な【レストラン マノワ】で働いていたシェフが、パティシェの奥さんと開いたカウンター6席の【roku(ロク)】はこれから長く愛されるお店になりそう。
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2019年、幡ヶ谷に誕生したイタリアン【サプライ】
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2020年【ウィル オ ウィスプ】で人気の『チキンコンフィ』
幡ヶ谷も一昨年【サプライ】が出て、昨年は【wii o’wisp(ウィル オ ウィスプ)】や【焼肉ホルモンさぶちゃん】が評判をあげていますよ。渋谷区で代々木上原といえなくもない。それでいて家賃が安くてちょうどいい感じの立地。これからもいいお店が増えそうですよ。
広尾や東麻布あたりも昔の面影が残っていて、良いお店がぽつぽつ出てきそう。取ってつけたような店ではなく、川沿い、海沿いの風景に馴染むような、昔からそこにあるようなお店が出てくるんじゃないかと期待しています。あと、東京は島もいっぱいあるけど活かしきれていないよね。高級リゾートにするとか、うんと振り切ってしまえば世界に通用するリゾートにできると思いますよ。
試練の時を経て、2021年の飲食業界はきっと明るい未来に繋がる!
“本当にいいお店とはなにか”を考えさせられた2020年を振り返って。「いまが改革のチャンス」
飲食業界にはいわゆる組合がなかったのですが、コロナを機に一致団結。JFDA(日本ファインダイニング協会)という財団をプラットフォームに若いシェフ達の活躍の場が広がり、世界中のシェフと繋がりはじめています。この先、日本はスペインのサンセバスチャンのように、「美食の街」として多くの人を呼べると確信しています。
コロナ禍で見つけた白金【La Clairirere(ラ クリエール)】柴田秀之シェフのレシピ動画に興味をもち、お店に行ったのですが、「YouTubeなどやれることは何でもやって、どんなことをしてでも雇用とお店を守ると決めました」とおっしゃっていました。ほかにも、目黒【ラッセ】の村山太一さんのように【サイゼリヤ】でアルバイトした経験を本にしたりと、どんな状況下でもやる人はやるし、そこから何かすごく大きなものを掴んでいる。決意した人は強い。そういう人のお店は必ず生き残るんだと感銘を受けました。
【サイゼリヤ】でアルバイトし、ビジネスのノウハウを体で学んだ【ラッセ】の村山シェフ。その経験を著書にした『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか?』
料理を愛し、お店を愛し、人を大切にしているお店は強いし、必ずや残りますよね。コロナ禍でも黙々と頑張って感動させてくださる飲食店の方々にいま私ができることは、とにかく気をつけながら食べに行って応援することだけです。
毎年『東京最高のレストラン』とは何かを話し合って本を作っていますが、高価で予約が取れないお店ほどいいというわけではなく、料理だけでもなく、しつらえ、人が一体となっていて、お店を出た後に、「ああ、今日はいい1日だった」と思わせてくれる店なんだなと改めて感じるこの頃。街、店、人のつながりをますます大事にしていきたいと思っています。
鼎談メンバーが「最近ハマったお店」と「注目シェフ」はこちら!
鼎談者3名が、ここ1年の間に訪れて感動した「最近ハマったお店」と、お仕事をする上で出会った「素晴らしいのシェフ」をご紹介します!
「最近ハマったお店」豪徳寺【OLD NEPAL TOKYO】
「鼎談でもお話ししたのですが、2020年に行ったお店の中で一番衝撃を受けました。ネパールって“中国とインドに挟まれた小国”というイメージが勝手にあって、お店にあるものは土着系みたいな。それをモダンに昇華したという点で、今後のネパール料理の発展の先陣を切ったように思います。スパイスカレーとインドカレーが一辺倒だった中で、ネパール料理は2021年以降、来そうな予感がします」
『ダルバート』
渋谷【ビストロ バー ア ヴァン コダマ】
「最近、渋谷・宮益坂にできたのですが、いわゆる“昔のビストロ料理”ばかり。『ニース風サラダ』や『バベットステーキ』を提供されていらっしゃいます。中でもオススメなのは、『ニース風サラダ』。とにかくすべての料理のボリュームも凄くて、こういうお店って今あまりないから貴重ですよね」
『自家製ツナのニース風サラダ』
【Bistrot Bar a vin Kodama】
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電話:03-5962-7726
住所:東京都渋谷区渋谷1丁目6-4 せいこうビル 1B
アクセス:東京メトロ[副都心線] 渋谷駅店舗詳細はこちら >
西麻布【洋食ビストロ TŌYAMA】
「洋食が好きで、西麻布に洋食屋【洋食ビストロ TŌYAMA】をつくったんです。もともと【洋食おがた】さんのところでやってたんですけど、僕が食べたいから、と西麻布にカウンターのこじんまりしたお店を開きました。しょっちゅう通っていて、ハンバーグもいいですが、茶碗蒸しみたいなほっとする料理が特に好きですね。コンソメ味で、スフレみたいな感じ。これを食べるととにかくほっとするんです」
『コンソメロワイヤルスープ』
【洋食ビストロ TŌYAMA】
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電話:03-6804-3969
住所:東京都港区西麻布1-11-13
アクセス:六本木駅 徒歩8分店舗詳細はこちら >
「いま、気になるシェフ」
【小薇点心】のシャウウェイシェフ
「シャウウェイさんは、信濃町でサロンのようなお店をやられていたのですが、コロナ禍を機に『これからは限られた人に料理を出すガストロノミーの時代じゃない』と判断して、中野富士見町に点心専門店を出されたんです。上海の郷土料理を日本に根付かせようという郷土愛の熱い方で、日本の料理人もシャウウェイさんに学べることは多いと思います」
【ケパッキア】酒井辰也シェフ
【樋渡】原耕平シェフ
「【トラットリア ケ パッキア】(麻布十番)の料理長に新しく就任した酒井辰也シェフと、【樋渡(ひわたし)】原耕平シェフの調理レベルの高さに感服しました。【クチーナヒラタ】【フェリチタ】など東京イタリアンの名店からの系譜ですよね。次の世代が確実に育っていることを実感できます」
【トラットリア ケ パッキア】酒井辰也シェフ
【樋渡】原耕平シェフ
【レストランAKIRA】清水明シェフ
「手前味噌で申し訳ないですが、ロンドンに2年前につくった【ジャパンハウス ロンドン】の中にある【レストランAKIRA】の清水 明シェフです。炉端、創作寿司など日本の文化を世界のフィルターを通してなんでも器用に表現できるんです。今はファーメンテーション(醗酵)料理をやっていて、世界的にも醗酵は注目されているので、今後の活躍が楽しみです」
「Japan House London」
日本食レストラン【AKIRA】
Tel:44-20-3971-4646
Ad.:Kensington High St, Kensington, London W8 5SA
※緊急事態宣言等に伴う営業時間短縮等に対応し営業時間が異なる場合もあります。最新情報は各店舗様にお問い合わせください
撮影/佐藤顕子(鼎談) 取材・文/藤田実子 構成/嶋亜希子(ヒトサラ編集部)
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