更新日:2019.04.12食トレンド グルメラボ 連載
シェフ達が語るサステナビリティ/~食の明日のために~vol.10
春は、「アジアのベストレストラン50」アワードのランキング発表の季節。毎年セレモニー前日に開催される学会形式のイベント、「50ベスト・トークス」で、世界のスターシェフたちが今年議論したテーマは「サステナビリティ(持続可能性)」でした。世界中の料理学会で常連のこのテーマがやっとアジアにも登場した背景とその内容をレポートします。
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「アジアのベストレストラン50」の人気イベント、「50ベスト・トークス」
サステナビリティ(持続可能性)は世界の頻出テーマ
シェフ達からのメッセージ
「アジアのベストレストラン50」の人気イベント、「50ベスト・トークス」
ミシュランやゴ・エ・ミヨなど歴史あるガイドブックに加え、レストランのランキングシステムをすっかりメジャーな存在にした「世界のベストレストラン50」。そのアジア版として2013年にスタートした「アジアのベストレストラン50」の、順位発表を行うイベントが今年も3月末に開催されました。
左はファシリテーターを務めた中国の担当チェアマン、クリステル・モー氏。4人の登壇者はイタリア、チリ、タイ、日本と出身は様々でも、地球の未来を案じ行動する姿勢は同じ。
今年の開催地は、昨年に引き続きマカオです。ランキングの詳細は多くの方々がレポートされているのでそちらをご参照いただくとして(※ヒトサラのレポートは下記リンクへ)、私がご紹介したいのは順位発表のセレモニー前日の3月25日に行われたイベント、「50ベスト・トークス」。
シェフたちが様々なトピックについて、自分なりの考えやリサーチの発表を行う学会形式のこのセッション、過去の例としては「アイデンティティを求めて」(アジア/2018)、「変化に向けて声を上げよう」(世界/2018)などのテーマのもと、毎回5~10名の著名シェフが壇上に立ちます。
様々な国から集まったジャーナリストを中心に、約650名の参加者がつめかけた「50ベスト・トークス」。直後のランチでは各国のガストロノミーとサステナビリティの話題で盛り上がった。
今回のテーマは「レストランになくてはならないもの(こと)」。
【傳】の長谷川在祐シェフが想い(魂)、バンコク【ガア】のガリマ・アロラシェフがスパイス、同じくバンコク【ボー・ラン】のボー・ソンウィサワシェフが塩、東京【イル・リストランテ・ルカ・ファンティン】のファブリツィオ・フィオラーニペストリーシェフが砂糖など、それぞれが「なくてはならないもの」として選んだトピックについて発表を行いました。
そしてトリを飾ったのが、世界各地から集まった4人のシェフ達によるパネルディスカッションです。彼らにとっての「なくては…」とは、「サステナビリティ(持続可能性)」でした。
サステナビリティ(持続可能性)は世界の頻出テーマ
実はサステナビリティはここ20年、欧米での国際的食フォーラム、カンファレンス、シンポジウム等の料理学会において頻出のテーマとなってきました。一方で、アジアではこれまで大きく取り上げられず、「50ベスト・トークス」でもごく一部で触れられるにとどまってきたのです。
それがここに来てメインのテーマに据えられたということは、昨年の「サステナブルレストラン・アワード」初導入にも見えるとおり、ついにアジアにも大きな波が押し寄せたと読み取るべきでしょう。
発表は英語、同時通訳は中国語で。事前登録制のイベントにはジャーナリスト中心に集まり、皆熱心に聞き入っていた。
さて、今回登壇したパネルは次の4人です。それぞれ取り組みのカテゴリーは少しずつ違えど、皆一様にサステナブルな食の地平を目指し、熱心な取り組みを続けている有名シェフ達ばかり。
●イタリア・ミラノで「Wood*ingワイルド・フード・ラボ」を主宰し、野草の食用化リサーチを続けるヴァレリア・モスカ氏。
●チリ・サンティアゴで地産地消や小さな生産者をサポートする道を切り開き、自身が率いるレストラン【ボラゴ】が2018年の「ラテンアメリカのベストレストラン50」で「サステナブルレストラン・アワード」を受賞したルドルフォ・グズマンシェフ。
●タイ・バンコクで有機ファーマーズマーケットを主催し、フードロスとサステナビリティに関する大きなシンポジウムを開くなど精力的な活動中で、「温室効果ガス排出ゼロレストラン」を目指すレストラン【ボー・ラン】のボー・ソンウィサワシェフ。
●食材の来し方や使用するエネルギー内容への配慮はもちろん、フードロス削減からスタッフの働き方改善まで幅広い取り組みが高く評価され、昨年「アジアのベストレストラン50」の初代「サステナブルレストラン・アワード」を受賞した東京【レフェルヴェソンス】の生江史伸シェフ。
シェフ達からのメッセージ
「サステナビリティに関する問題に関して、人々にもっと知ってほしいこと、知らせたいことは何ですか?」「皆さんの地元のシェフに、勧めたい取り組みは何ですか?」「ゲストや一般の方々に、一人ひとりができること、踏み出せる一歩を勧めるとしたら?」「サステナビリティ推進に向けて、皆さんの成功例をひとつ挙げてください」「影響力を持つセレブリティとして、それぞれの国の政府や企業などに要望を伝えるとしたら?」
落ち着いた口ぶりの中に環境保全への強い想いや信念がうかがい知れるヴァレリア・モスカシェフと、誠実で謙虚な人となりが言葉の端々ににじむロドルフォ・グズマンシェフ。
中国の評議員長、クリステル・モー氏のファシリテーションのもと、4人が自由に持論を紹介したこのセッション。
モスカ氏は、「自然と触れあい、コミュニケーションを持つ機会を少しでも増やしてみて、と伝えたい。そうすれば、オーガニックのその先まで考え行動に移す人は増えるはず」と訴えました。
グズマンシェフは教育の重要性に何度も触れ、「何より教育は大切です。政府は子ども達への学校教育の中で、食の大切さを伝えるべき」と話しました。また「我々には未来に向けた責任がある。ポリエチレンバッグを大量に使う真空調理法は、どうしても使う必要があるのかな」と疑問を表明することも。
ボー・ソンウィサワシェフはマイボトルを手に壇上へ。旧知の同志、生江シェフは、ボーシェフが夫のディラン・ジョーンズシェフとともに昨年主催したフードロスに関するフォーラムにも登壇した。
マイボトルを持って壇上に上がったソンウィサワシェフは、何度も使い捨てプラスチックについて触れ問題を提起しました。「魚運搬用の発泡スチロール容器は紙製に切り替えることができるはず」「政府は、使い捨てプラスチックを全面禁止するべきではないでしょうか」。
対して生江シェフは、「ラップフィルムなどは素材の品質維持に役立つため、フードロスを減らす効果もある。バランスが必要でしょうね」と持論を展開。また「JALの機内食をコンサルティングした結果、今では地元の小規模農家の野菜を使ってくれています。機内食は食数が多いだけに、(温室効果ガス低減の)インパクトはあったと思います」と成功例の一端を紹介しました。
1時間弱にも及ぶパネルディスカッションを通じて、シェフ達が何度も口にしたのは「レスポンシビリティ」つまり「責任」という言葉です。モー氏はそれをくみ取ってか、アメリカの作家にして農業者、かつ著名な活動家でもあるウェンデル・ベリー氏の言葉を紹介してセッションを締めくくりました。
パネルディスカッションを締めくくったのは、ファシリテーターを務めたクリステル・モー氏の力強いメッセージ。
「我々は、古の昔から地球を想いやり、大切に扱ってきました。それは、今後もずっと、我々自身が責任をもって成し遂げなければならないことです。今ある地球を大切に愛で、再生させることは、我々に残された唯一の希望なのです」
翌日開催されたセレモニーでは、50位までのシェフが会場に集結。今年の一位、シンガポール【オデット】のジュリアン・ロイヤーシェフ(中央でクリスタルの盾を掲げるシェフ)が、受賞後の公式会見で自店のサステナビリティ推進方法について語った一幕も。
この記事を作った人
佐々木ひろこ
日本で国際関係論を、アメリカでジャーナリズムと調理学を、香港で文化人類学を学び、現在はジャーナリストとして、主に食文化やレストラン、料理をメインフィールドに取材を重ね、雑誌、新聞、ウェブサイト等に寄稿している。水産資源が抱える問題に出会ったことをきっかけに、若手シェフらと海の未来を考える料理人集団「シェフス・フォー・ザ・ブルー」を立ち上げ、積極的な活動を展開中。
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