【閉店】怪しい店名の【レカマヤジフ】が“カレーを分解”してしまったワケとは?|祐天寺
祐天寺駅から徒歩5分ほどの住宅街に佇む、スパイスが香るお店【レカマヤジフ】。怪しい店名に加え、ここのコース料理のテーマは“カレーの分解”と“再構築”なのだそう。一体どんな料理が楽しめるのだろうか…。早速行ってみました!
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スパイスの風味や香りを楽しむお店【レカマヤジフ】
カレーを“分解”し“再構築”するコース料理を提供
ランチはコースの他にカレーも提供
スパイスの風味や香りを楽しむお店【レカマヤジフ】
カレーを分解?し、再構築?した料理を出す店があるらしい。そして店名は【レカマヤジフ】…? カレーだからインド料理かな? でも分解だし、店名は意味不明だし……。「?」が浮かぶばかりで、一体どんな料理が出てくるのかさっぱり見当がつかない。ならば論より証拠なり。さっそく、その「?」の多い店に行ってみることにした。
民家をリノベーション。自然光が豊かに入り木を基調とし、心が安らぐスペースだ
【レカマヤジフ】は東横線・祐天寺駅から徒歩5分ほど、住宅地の中に佇んでいる。しかし看板が置かれてなければ、飲食店だと思わない人もきっといるはず的な住宅然としていて、外観からもどんな料理が出てくるのか見当がつかない。
ここまでくると、少しホームズ気分。臆せず店に入ると、スパイスの香りが穏やかながら鼻腔をくすぐる。
バックバーにはホワイトペッパー、フェンネル、フェネグリーク、カルダモンなど、使用するスパイスが並ぶ。店に漂うスパイス香はその日の仕込みで変わるそう
見れば瓶に詰められた香辛料が店内のあちらこちらに置かれている。むむ? これはやはりインド料理なのか。よくよく考えて店名も逆さに読めば“フジヤマカレー”じゃないか。きっとカレーを様々に楽しませてくれるのだろう。とはいえ、分解と呼ばれる様々なカレーが気になるじゃないですか。期待に胸を膨らませ、さっそくコースを頼むことに。
カレーを“分解”し“再構築”した「スパイスを楽しむ」コース料理
しかし供されたコース料理を見て、僕の考えが実に浅はかだったと痛感させられることになった。
前菜に『聖護院大根と生姜の茶碗蒸し』である。生姜は確かにカレーに使われる素材だけれど、茶碗蒸しだと? 生姜の香り、ふっくらとした聖護院大根、ふわりとした卵。全てが調和して美味しい。むしろ生姜を効かせた茶碗蒸しなんて初めての経験だ。でも、これカレーじゃないよね……?
『前菜-8種盛り-』。ピータン豆腐、アオリイカの冷製 椒麻ソース、マコモダケとレモングラスのマリネ、赤水菜とクミン 赤酢漬け、ホワイトアスパラの生胡椒ソース、カリフラワーのカルダモンピクルス、菜の花のマスタード和え、紅芯大根のアチャール
ついで供された『前菜-8種盛り-』なんて、見た目はまるで日本料理の八寸だ。食べると素材の持ち味を活かした味わいで……あれ、花山椒にレモングラス、クミン、胡椒、マスタード……8種の料理は、それぞれにメインで使われているスパイスが異なっている。もしかして分解って……
「カレーには10数種類のスパイスが使われていますが、一つひとつの味となると、実はみんなよく知らないじゃないですか?」と語るのは、髙木祐輔シェフ。
髙木祐輔シェフ「(斬新な料理のアイデアは)食べ歩きの中で思いつくこともありますが、多くは本を読んだり、映画を観たりとリラックスしているときも多いですよ」
「とはいえスパイスをそのまま食べていただくわけにはいかないので、スパイスの奥深さではなく風味や香りを楽しんでもらうこと、手を加え過ぎない素材を生かした料理にすることは意識しています」。
しかし、その料理たちは、例えばさっと茹でたイカをネギと花山椒のソースで和える、赤水菜の甘酢漬けに熱したクミンオイルをかけるだけなど、インド料理とは違う、和や中国の技法を感じさせるのだ。
「それは私が中国料理の出身だからです」と、髙木祐輔シェフ。
「中国料理でも香辛料をよく使うので、カレーやスパイスがテーマになっても違和感はありませんでした。逆にインド料理については初心者で固定概念もあまりなかった分、自由な発想ができているんだと思います」。
『餅米焼売』。餅米をタネにまとわせ蒸している。揚げた針生姜の爽やかな香りと青山椒の痺れが心地よいアクセントに
そんな説明を聞いて、あらためて料理を口に運ぶ。どの料理も、スパイスの香りが素材の味わいを引きたてつつも、その香りがくっきりと印象に残る主役にもなっている。すべてが絶妙のバランスで成立しているのだ。
その後、『飴色玉ねぎとホタテの春巻き』で玉ねぎの甘みを、『水蓮菜の腐乳炒め』でターメリックの色合いと風味を、『鮮魚蒸し』で野山椒と自家製柚子胡椒の香りを楽しませてくれた後、いよいよメインの登場となる。
『馬告キーマ』。カレーと一緒に食べる前にご飯だけをひと口楽しんでほしい。穏やかに香る胡椒がこんなにもお米を美味しくするなんて! と驚くはず
ここまで、カレーに使われるスパイスを個別に楽しませてくれる料理だが、いよいよ登場のメインはそれらスパイスなどをすべて使った、あるいは再構築した一品『馬告キーマ』だ。
馬告(マーガオ)は台湾で採れる山胡椒で、レモングラスのような香りとピリリとした辛さ、ほのかな苦味を持つスパイスなのだそう。その辛みにより肉の旨味が引き立てられた香り豊かなカレー。胡椒の茎などを煮詰めた水で炊くご飯。コクある卵黄。そしてその個性溢れる面々をモロヘイヤのピューレの風味と粘りが見事にまとめ上げる。口に含めば、鮮やかな香りとまろやかな辛み、コクがブワッと広がっていく印象。
スパイスをつけ込んだウォッカを使用した、(右)『カルダモンレモンサワー』750円と(左)『3種の生姜の辛口モスコミュール』650円。前者は料理との相性が抜群で、後者は食後にまったりと飲みたい
一つひとつは個性があるのに、まとまると互いを引き立て合う関係になる。そんなスパイスの面白さ、美味しさを表現するにぴったりなメインディッシュだ。最後にスリランカ紅茶を使ったデザート『大人のフルーツポンチ』でフィニッシュ。
ランチはコースの他にカレーも提供。米粉に全卵を落として作る薄焼き生地でカレーを包んで食べる。写真は『胡椒バターとチキン』と『ココナッツとエビ』の2種セット1,500円
『レカマヤジフ』の分解と再構築……美味しさももちろんだが、料理がまさに進化している途中を垣間見ているような興奮に溢れていた。
髙木祐輔
1994年、東京都出身。両親がともに料理人という家庭に育ち、自身も高校時代には料理人となることを決めていた高校卒業後に「ザ ・ペニンシュラ東京」の広東料理店【ヘイフンテラス】で研鑽を重ね、その在籍時には料理人コンペティション「RED U-35」で入賞も果たす。その後、麻布十番の中国料理店【ナポレオンフィッシュ】を経て、【レカマヤジフ】のシェフに。
撮影/今井 裕治 取材・文/武内 しんじ(フリーライター)
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